海外経済セミナー

会場の様子

訪日観光客からも関心の高い「食」

 2018年9月28日に大阪で開催したクレア海外経済セミナーでは、訪日観光客からも関心の高い日本の「食」を切り口としてインバウンドに関する情報を提供しました。食文化を活用したインバウンドの先進事例・最新情報や、「インバウンド対策の一つの資源として地域の食をどのように活用していくべきか」等の示唆について、4人の講演者それぞれの立場・視点からお話いただき、自治体関係者を中心に多くの方にご参加いただきました。

 

セミナープログラム

テーマ:「食×インバウンド」

 

基調講演「ガストロノミーツーリズムのすすめ」
講師:(公社)日本観光振興協会 事業推進本部 国際交流推進室長 中村慎一 様

 

講演1「 海外から見た日本食~ハレからケへ、変わる外国人の視点~」
講師:(株)JTB総合研究所 コンサルティング第一部主任研究員 倉谷裕 様

 

講演2「 金沢が持つ資産やポテンシャルを活かした食文化の魅力発信」
講師: 金沢市経済局産業政策課長 土村誠二 様

 

講演3「 農泊を活用した地域活性化について~地元の食材が地域の魅力に!~ 
講師: (一社)日本ファームステイ協会 事務局長 大野彰則 様

 

世界における食を活用した観光振興

日本観光振興協会事業推進本部国際交流推進室長の中村慎一氏

 まず、基調講演として、日本観光振興協会事業推進本部国際交流推進室長の中村慎一氏から、以下のように講演をいただきました。

 

 日本観光振興協会は、DMOの設立支援やテーマ別ツーリズムの普及、観光人材の教育など観光を通じた地域振興を行っている。また、UNWTO(国連世界観光機関)とも包括的な業務提携を締結し連携している。UNWTOは、国連の専門機関であり観光を通じた持続可能な社会の発展をめざし、国と民間機関の双方により成り立っており、我が国は理事国となっている。UNWTOは国連全体の目標であるSDGs(持続可能な発展目標)をベースに様々な活動を行っている。今回のセミナーのテーマである、ガストロノミーツーリズムとは、その土地の気候・歴史・風土によって育まれた食や食文化をその土地にと訪れて楽しむことを目的としたツーリズムである。新しい価値観や体験は、地域で差別化することができ、観光資源が乏しくても、未開発の地域でも取り組むことができる。ストーリー性を考え、再訪意識を考えたツーリズムにすることが重要である。

 海外でのガストロノミーツーリズムの好事例についても紹介させていただく。スペインのサンセバスチャンでは、素材-加工-メニュー-提供-情報提供の一連としてツーリズムのバリューチェーンを確立した良い事例だ。生産者からの料理提供、サービスの向上・プロモーション、誘客までの一気通貫している。また、サンセバスチャンではパンフレットについて、街全体で統一したもののみ配布している。

 アルゼンチンのメンドーサは、ワインツーリズムとしても有名な地域だ。ぶどう畑を自転車で巡る体験やワイン以外の様々な要素を組み合わせて提供している。ワインを体験するシーンを準備しているのはもちろんだが、ワインだけではなく美しいアンデスの大自然やメンドーサ地域のかりんやオリーブ、地元の食事も提供しながら、ガストロツーリズムに取り組んでいる。

 日本において、ガストロノミーツーリズムは4つの点から有効であると考えている。地理的特性から生み出された豊富な自然環境、そこで育まれた日本食や酒、そして大きな国内旅行客を抱え、さらに訪日旅行客が伸びている観光大国であること、そしてこれからの人口減少を見据えた社会環境である。国内のガストロノミーツーリズムの事例として、飛騨高山では地域と酒蔵が一体になって取り組んだ好事例であり、酒蔵を開放し、訪れてみて試飲してその場で買えるようになった事例である。また全国的に展開しているONSEN・ガストロノミーツーリズム推進機構が推進しているガストロノミーウオーキングを実施している山口県・長門市では、様々な事業者や関係の部署(警察や保健所など)、住民が参加・連携したことによって、地域のまとまりが生まれ、地域の活性化にも役立っている。ガストロノミーツーリズムを取り組むにあたり重要な点は、一次産品の生産からツーリズム化、食文化の継承までを一つのバリューチェーンとして考えることが鍵である。

 

 

世界から見た和食ブーム

(株)JTB総合研究所コンサルティング第一部主任研究員の倉谷裕氏

 1人目の講演は、(株)JTB総合研究所コンサルティング第一部主任研究員の倉谷裕氏より講演をいただきました。

 

 外国人観光客の人気観光地は変化している。増加する外国人旅行者に対し、都市部だけでは対応しきれなくなっている。観光資源が地方で多様化しているため”グローカル”な戦略が必要である。来訪形態も多様化しており、口コミで情報を得て来日する外国人旅行者が増加している。爆買いだけが経済効果ではない。日本を知ってもらうことが誘客には必要で、国としてもインバウンドを推進している現状がある。

 外国人から最近人気がある日本食のひとつに、枝豆がある。寿司などの代表的な日本食は依然人気であるが、日本食メニューの検索ランキングでは枝豆(edamame)も上位に入っていて、外国人から注目されている日本食の一つである。

 和食が2013年12月にユネスコ世界無形遺産に登録され、世界5番目の食の世界遺産になったことも和食ブームのきっかけである。訪日旅行者に日本食を食べてもらうことは定番化している一方で、海外では日本食レストランが増加している。現在、世界には10万店以上の日本食レストランが存在しており、海外でも和食への高まりが起こっている。それに合わせ、お好み焼きソースやだしなどの食文化そのものを世界に輸出していることによって、さらに日本食への関心も高まってきている。以前は、寿司、刺身、てんぷらなど日本食の代表ともいえる日本食が人気であったが、最近の傾向では、ラーメン、うどんやそばなど麺類への関心が高くなっていて、食の嗜好が変化してきている。また居酒屋ブームも見逃せない。

 外国人旅行者の中には、日本の生活や暮らしに触れたい人も多い。日本国内の地方の大学や高校へ留学生は、地域と交流し、日本の日常生活に触れ、将来海外に戻ってもリピーターとして日本に戻ってくることもある。中には、その地域に就職した例もある。また、農産物の産地を表示することで生産現場に訪れる外国人旅行者も多く、生産者の顔が見える関係がさらに日本食への関心が高まる要素である。農産物の産地を訪れた外国人旅行者の例として、日本のいちご狩りを体験した旅行者は、その場で収穫し、そのまま食べることができることに驚く。「自分の国ではあり得ない。日本の果物は安心・安全である」と喜んでいる。

 世界的なイベントに合わせて地域のプロモーションイベントを実施し、日本の食文化をアピールすることが重要である。2019年ラグビーワールドカップ(RWC)や2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて各自治体でPRが始まっている。熊谷市で開催された全国ご当地うどんサミットでは、RWC熊谷会場でプレーする国の駐日大使が訪れ、うどん作りの体験も含めて、楽しんでいた。また、東京オリンピック・パラリンピックが開催される時期は、日本では夏祭りが開催される時期でもあり、祭り会場で郷土料理を提供することによって、簡単に食文化を世界に発信することができる。

 地域の日常自体が交流素材であり、無理をせず自然体の日常を切り取ることで観光になり、外国人旅行者には魅力である。

 

 

金沢の資産・ポテンシャルを活かした食文化の魅力

金沢市経済局産業政策課長の土村誠二氏

 続いて、金沢市経済局産業政策課長の土村誠二氏より講演をいただきました。

 

 2017年の食文化が豊かな街ランキングで1位となった金沢では、「五感にごちそうかなざわ」をキャッチフレーズに、観光振興に取り組んでいる。新幹線が開通した当初は、ストロー現象も懸念されてはいたが、金沢を訪れる観光客やクリエイター等の移住者が増えていて、今でも好調を維持している。また、金沢の食文化は、食を楽しむだけではなく、海山の豊かな食材や料理人の技、食器等の工芸品、金沢芸妓等の伝統芸能、料亭等のしつらえなど、これらが揃っているのが金沢の強みである。

 金沢固有のコンテンツ作りとして、金沢の海の幸をPRするために、マスコットキャラクターを作りPR手法を強化した。漁業関係者から料理人までが参加する懇話会を開催したり、金沢おでんの定義を確立し市民と観光客がおでん談義をしたり、行政主導の働きかけではなく、民官連携の体制から徐々に良い形になってきている。他にも、おばあちゃんやお母さんから郷土料理を学んだり、野菜を1日350gどう摂るのかという食育を食文化の推進に取り入れたり、子供への伝統文化の継承(加賀宝生や素囃子、茶道などの子ども塾)からもふるさとを考える機会とし、食文化の継承・振興に取り組んでいる。後継者の育成としては、海外の料理人受入や市の若手料理人の海外派遣を行っていることや、来年8月7日には、全国の高校生を対象にWASHOKUグランプリを行い、最優秀チームには海外での研修機会を与えることも考えている。次代を担う和食料理人の育成と発信を同時に行い、和食の認知度を高める取り組みとしている。

 海外への情報発信と誘客について、ヨーロッパと東アジアでのプロモーションに力を入れている。欧州重点プロモーションとして、「欧州」「女性」「富裕層」にターゲットを絞り、イタリアで現地の旅行会社向けに観光セミナーを開催した。また、韓国では、寿司職人、和菓子職人を派遣し実演を行ったことが現地では好評で、芸妓の伝統芸能も披露し、食と文化体験を合わせて海外PRをしている。ターゲットを絞らないと、大海原に餌のない釣り糸を投げ込むようなもので、ターゲティングが重要である。クレアJETプログラムの国際交流員(CIR)制度を活用し、CIRが360°VR動画で金沢の寿司やおでんの魅力を世界に向けて発信している。姉妹都市のフランスのナンシー市と食文化交流も行っている。

 また、オノマトペ(擬音語)にこだわった動画で金沢の食文化PRを行っている。最後に話題提供だが、プラスチック製の古地図マップ破れず、雨対策にもなり、観光客からも好評である。

 

 

「農泊」とは?

日本ファームステイ協会事務局長の大野彰則氏

 最後の講演では、日本ファームステイ協会事務局長大野彰則氏より、農泊に関する講演をいただきました。

 

 農泊とは、農村漁村地域の伝統的な生活体験をしてもらい、地域の人々との交流を楽しむものである。古民家を活用した宿泊施設など、多様な宿泊手段を体験することも併せて、魅力を味わってもらうことが目的である。農林水産省で推進が始まっている。人口減少、空き家、雇用喪失、文化の継承困難、耕作地放棄など地域の課題は様々だが、農泊を取り組むことによって、インバウンド増加、地域の所得向上、遊休資産の活用、移住、定住者の増加、産業の確立などの効果が望まれる。ファームステイ協会では、「農泊を地域振興の中核に」という考えのもと、農泊に対する国内の取り組みを民間の立場から支援し、農産漁村の所得向上、地域の活性化を目指している。

 海外で農泊は進んでいる。特に欧州では農泊が既に定着していて、ドイツやフランスでは個人旅行者を中心に、年間2,500万から3,000万泊の農泊が行われている。農泊に対する取り組みが後発であるイタリアでも、年間1,000万泊以上という規模で農泊が行われている。農泊の先進地であるイギリスでは、提供する食事は原則として朝食のみである。オーナーに無理のない運営を目指している。夕食は地域のレストランなどを紹介し、地域との連携を意識している。地域ぐるみで連携を図り、無理なく持続できる仕組み作りが大切である。

 RWCやオリンピック・パラリンピックは、日本国内の農泊にとって大きなチャンスである。特にRWCは、試合間隔が長く、会場も点在しているため、観戦に訪日した外国人旅行者はその間日本国内を旅行することになる。農泊にはチャンスがある。そのためにも、地域の情報発信が大切だ。

 

 

最後に

 今回、「食×インバウンド」というテーマで、食を切り口にインバウンド対応をしている事例を、様々な立場からご紹介頂き、クレアの方でも、「食」を切り口とした地域のプロモーション事業を国内外で行なっていることを当日ご紹介致しました。参加者からは、「新しい情報が多く、大変勉強になった。自分の所属組織でも連携し、活用できるものがあれば参考にさせてもらう」や「ガストロノミーツーリズムを取り巻く世界の状況と国内の動き、プレーヤーが分かった」などのご意見を頂きました。

 今後とも、クレアでは自治体のインバウンドや販路開拓といった経済活動の参考となる情報提供の場でセミナーを実施して参ります。

 

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