島根県には外国人観光客が急速に増えている。リピーターの台湾人が、関西国際空港から足を延ばして、鳥取県と島根県を訪れる。また、中国人を乗せたクルーズ船が境港に停泊し、島根県に立ち寄る。
こうした中、島根県には国家資格の通訳案内士が少ない。豊富な観光資源がありながら、うまくアピールできないジレンマがあった。
そこで、特区制度を活かしての地域限定特例通訳案内士育成に乗り出すことに。鳥取県と連携した新しい挑戦としてスタートした。
ポイント:
・特区制度を活かして地域限定特例通訳案内士育成を目指す
・鳥取県と地域連携して山陰の観光を盛り上げる
島根県は、松江城と城下町、出雲大社、古都津和野、世界遺産の石見銀山遺跡、さらに最近では足立美術館など観光スポットが多い。しかし、アクセスの不便さから外国人観光客の誘致が遅れていた。
ところが、ここ数年、これまでのプロモーション活動が実り、台湾など東アジアを中心に外国人観光客が増えてきた。
関西国際空港を利用する台湾からのリピート客が、JRを利用して鳥取県や島根県まで足を伸ばす。広島空港からの団体旅行者も増加している。鳥取県の米子空港は、島根県との県境に有り、韓国のアシアナ航空が就航していることから、韓国人が多く利用している。また、同じく境港には、中国からのクルーズ船の入港が増えていて、2014年は11隻だったが、2015年には23隻に増えている。16万トンを超える「クァンタム・オブ・ザ・シーズ」が境港に立ち寄り、約4,700名の中国人観光客が下船した。足立美術館や松江城をまわるツアーも実施した。
中国からはクルーズ船なので、ランキングには入ってこないが、島根県の外国人の国籍・エリア別宿泊統計によると、1位が台湾で2014年が7,800人で、2013年の4,256 人から大きく伸びている。2位は韓国、3位が米国と続く。
このような中、ここ数年で急激に増えている外国人観光客に対して、通訳ガイドが不足している。今後、着地型ツアーを造成するにも通訳ガイドがいない。
島根県庁によると、2015年に国家資格を持っている通訳案内士(通訳ガイド)は、県内にわずか39名だ。またそのうち、30名近くが英語での登録。ニーズの高い中国語や韓国語が不足している。
旅行会社にインバウンドの営業に行く際にも、地元に通訳ガイドがいるというのが訴求ポイントとなる。
そこで、島根県は、鳥取県との連携を強化して、同じ課題に取り組むことにした。
もともと島根県は海外とのゲートウェイがなく、鳥取県の空港か港からの流入が多い。また、鳥取県と合わせて観光するなど、外国人にとってはひとつの観光圏だ。
鳥取県とはVJ(ビジット・ジャパン)事業でも接点が多く、人的交流があった。いかに山陰地域を周遊してもらうかという広域連携にも取り組んでいた。
2015年9月に構造改革特区法が改正された。
この改正で、地方公共団体が行う研修を修了した者は、地域限定通訳案内士とすることができるという特例が追加された。島根県と鳥取県は、その前年から「地域限定通訳案内士特区」についての必要性を検討しており、9月1日に告示されてから、同月16日には「山陰地域限定特例通訳案内士特区」の申請をして、11月には認定された。国家資格の通訳案内士は、全国主要観光地の知識が求められるが、この特区により、島根・鳥取に限定した通訳案内士を養成し、独自に登録することができるようになった。
さらに、2015年11月21日から受講生の募集が、株式会社ツーリストエキスパーツに業務委託して始まった。翌年2016年の1月17日に募集を締め切っている。
応募者の内訳は、若年層からシニアまで幅広く、また在住外国人からの応募もあった。
申込者数は両県合計で320名、内訳は英語が176名、中国語が97名、韓国語が47名だ。
地域限定特例通訳案内士になるには、両県で行う研修を経て、口述試験に合格しなければならない。
研修は無料だが、受講生になるには面接試験を通った者に限られる。韓国語、中国語、英語の3コースに各20名の定員だ。
必要な語学力の水準は、英語がTOEIC730 点相当以上または英検準1級相当以上。中国語は、中国語検定 2 級相当以上またはHSK試験5級相当以上。韓国語は、ハングル能力検定 2 級相当以上または韓国語能力検定5級相当以上。または上記3言語ネイティブ者で、日本語能力検定2級相当以上が必要だ。
1月末に受講の面接、2月から研修が始まり5月まで続く。土曜か日曜を利用して全部で14日間ある。カリキュラムは、島根県及び鳥取県の観光、ホスピタリティ・コミュニケーション、語学・ガイドスキル、旅程管理、救急救命、実地研修等だ。島根や鳥取の観光については、24時間をとる予定で、「地域の特色を身につけてもらいたい。」と、県の担当者。
そして研修の最後には、登録のための口述試験を実施する。
また鳥取県と、同時並行で山陰版のDMO(デスティネーション・マネージメント・オーガニゼーション)(※注)の立ち上げが検討されている。
※注 日本版DMO
地域の「稼ぐ力」を引き出して「観光地経営」の視点に立った観光地域づくりの舵取り役として、戦略を策定し、実施するための調整機能を持つ法人である。地域の観光ブランディングをどのよう高め、観光業、宿泊業を含め、さらにそれ以外の小売店や飲食店など、幅広い関係事業者を巻き込んだ取り組みを期待されている。
島根県は鳥取県と連携を強め、観光資源の訴求をますます強めていくだろう。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/