数年前までは日本人でさえあまり知る人がいなかった瀬戸内の小さな島々に、世界が注目している。瀬戸内国際芸術祭という3年に1度のトリエンナーレが、開催されるからだ。「瀬戸内国際芸術祭2013」の期間中は100万人をこえる来場者があり、香川県内における経済波及効果は132億円という試算だ。いかにして海外での知名度があがっていったのかを紹介したい。
<今回のポイント>
1:アートを通してエリアブランディング
2:イベントのプロモーションが小さな島々の知名度を押し上げる
3:香川県の海外からの直行便と連動していた
アートによる地域おこしの先進的事例が、3年に1度開催される「瀬戸内国際芸術祭」だ。ここでの成功をきっかけに、全国にアートブームが広がったと言っても過言ではない。
瀬戸内の小さな島、「直島」のことを多くの外国人が知っている。もちろん瀬戸内芸術祭がきっかけだという。現代美術を通して瀬戸内海の魅力を世界に向けて発信したことが、知名度向上につながったのだ。
瀬戸内国際芸術祭は、第1回が2010年に開催された。
期間中、瀬戸内の島々に美術作品が展示され、アーティストや劇団・楽団などによるイベント、地元伝統芸能・祭事と連携したイベントが行われた。
瀬戸内国際芸術祭の開催で、島の住人と世界中からの来訪者の交流が行われ、島々の活力を取り戻すことを目的とした。
副題に「アートと海を巡る百日間の冒険」と掲げられ、7月19日〜10月31日の105日間の開催となり、延べ約94万人が島々を訪れた。会場は、直島、豊島、女木島、男木島、小豆島、大島、犬島、高松港周辺となった。
参加者は18の国と地域から75組のアーティストだ。
第2回目は、2013年で、3月20日から会期を春、夏、秋の3つに分けて計108日間の開催。前回の会場に沙弥島、本島、高見島、粟島、伊吹島の5島と宇野港周辺が加わった。来場者数は約107万人に達した。
実際に外国人の来場者も増えてきた。とはいっても、日本人と比較するとわずかではあるが。
なかでも台湾や韓国からの来場者が多いが、それは香川県の高松空港には台北、ソウルの直行便が就航しているからだ。香川県は、5年前から国際線誘致による海外集客に力を入れていて、瀬戸内国際芸術祭にも好影響を与えている。
台北で毎年開催される国際旅行フェア「ITF」でも、ここ最近は直島の情報を知りたいという相談が寄せられているので、台湾の現地旅行会社への営業の際に、瀬戸内国際芸術祭をセットで案内していた。
一方、ヨーロッパからはフランスが多い。それは直島にあるベネッセの美術館に起因している。もともとは20年前にベネッセが建てた現代美術館が、長年フランスで紹介されてきており、知名度が高い。
漠然と瀬戸内の小さな島々の魅力を海外に紹介するのは難しいが、アートと絡めていくと、切り口にエッジがきいてくる。
海外メディアの取材誘致を目的に、日本外国特派員協会(FCCJ)において記者会見を行い、芸術祭のコンセプトを説明した。
春会期プレスツアー初日の 3月18日から閉幕日の11月4日までの間で、実行委員会事務局がプレス証を発行した報道関係者は、国内外合わせて延べ 930 名となった。
海外からだけで、テレビが14社、ラジオが1社、新聞が1社、雑誌が8社、webが2社、その他が3社だ。
広告効果に換算すると数億円規模といわれている。
海外広報活動として、大きく3つの柱があった。
1つが、北川フラム総合ディレクター(※1)による海外メディア・旅行エージェント等に対する現地PRだ。
(※1 北川フラム総合ディレクター:1946年新潟県上越市生まれ。東京芸大卒。アートディレクターとしての実績が多く、国内外での受賞暦多数。地域づくりの実践として、2000年にスタートした「大地の芸術祭 越後妻有アートトリエンナーレ」がある。)
2012 年 11 月 台湾(台北) ・ 2012 年 12 月 韓国(ソウル) ・ 2012 年 12 月 フランス(パリ) ・ 2013 年 7 月 台湾(台北)で実施。
2つ目が、メディアの招聘事業だ。
ビジット・ジャパン(VJ)事業と国際交流基金も活用した。
中国、台湾、韓国、タイ、ルーマニア、アメリカ、チリ、トリニダード・トバゴ、オーストラリア、フィリピン、フランス、オランダ、英国、ベルギー、ポルトガル、エストニア、カナダ、 キューバ、インドネシアなど多彩な国々から招いた。
3つ目が、日本政府観光局(JNTO)海外事務所を通じた広報だ。チラシ配布、ウェブサイト掲載の協力を得た。
芸術祭全般を紹介する公式ウェブサイトには 165 の国と地域から、約 213 万件 のアクセスとなり、海外からは9万2,000件となった。
また、集客には、海外参加のアーティストの存在も大きいと主催者。26 の国と地域から参加があり、併せてその国の方も来場される傾向だ。
高松港の総合インフォメーションセンターにおいては、外国語の電話問い合わせに対応できるスタッフを配置するなど、外国人観光客対策を強化した。地元の観光についても説明ができ、さらにアートにも造詣があるスタッフも採用。
実際に来場された外国人からは、食べ物や島以外の観光地についての問い合わせが多く寄せられた。
詳細をあまり決めないで、ぶらりと来場されるので、案内所が役立ったそうだ。
今後の課題としては、多言語対応である。
中国語や韓国語など、来場者比率からは近隣からの来場者が多いからだ。
さて、次回は2016年の開催となる。香川県にある実行委員会では既に準備がスタートしている。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/