経済産業省が公開している資料(※1)によれば、2018年の日本から中国へのECサイトを通じた輸出額は1兆5,345億円。これはアメリカへの同輸出額(8,238億円)の約2倍にもなり、日本から海外への農林水産物、食品の輸出額(9,068億円、2018食料産業局調べ(※2))と比べても非常に大きな市場となっています。また、世界のEC市場における主要国が占める割合についても、中国は52%(※1)と圧倒的なシェアを占めており、今や中国越境ECは決して無視できない市場になっています。
このような状況を受け、中国越境ECに対しては、新たな販路開拓先として自治体からの関心も高まっていますが、どのように施策を進めていけばよいのかなど、悩まれている自治体も多いのではないでしょうか。そこで今回は、中国向け越境ECに特化した事業を展開している株式会社ACD(東京都江東区(※3))営業統括室の松本(まつもと)舜太(しゅんた)氏に、越境ECの今後の可能性や取り組む際のポイントなどについてお話を伺いました。
(株)ACD 営業統括室 松本舜太氏
1. 動機付けなくして越境ECに成功あらず ~インバウンド対策から着々と~
「「越境ECが伸びている!」というワードに囚われ、いきなり越境ECに取り組むのはNG」と話を切り出した松本さん。越境ECは購入者からしてみれば買う場所の選択肢の一つであり、買うための動機付け、きっかけ作りを行わない限りは、いくら越境ECにチャレンジをしても売り上げにつながることはありません。どんなに高性能・高品質の商品であっても越境ECでは現物を見ることができないため、画像と動画のみで魅力を伝えるしかなく、世界的にも知られているハイブランドな商品は別として、出展しただけで売れることはないそうです。では、越境ECで成功するために、事業者・自治体は何をすべきなのでしょうか?
「まずすべきことは発信も含めたインバウンド施策です」と松本さん。越境ECでの商品購入のきっかけは日本への旅行であることが多く(表1)、旅行をきっかけに地域の産品を知る、食べる、体感するなど商品に実際に触れる機会が生まれることで旅行中の購入に結び付き、やがて「この良い商品を他の人にも知ってもらいたい」という思いにつながることでSNS等での拡散につながっていきます。その時に越境ECで当該商品が購入できるプラットフォームがあって初めて継続して売れる仕組みができていくそうです。
越境ECとインバウンド施策は密接に絡んでおり、切っても切れない関係。地方こそその結びつきは強く、自治体にはまず、地場産品を知ってもらうためのインバウンドコンテンツの開発や地域を知ってもらうための情報発信など継続的なプロモーションが求められます。
2. 成功のカギはリピーターへの結び付け ~オフラインとオンラインの掛け合わせ~
前述のとおり、越境ECでの商品購入のきっかけは自身だけでなく家族、知人等からの間接的なきっかけも含め、「旅行」であることが分かります。
「訪日旅行という購入のきっかけをどのようにコンテンツとして作り、リピーターに繋げていけるかがカギです。」と松本さん。この仕組みを作ることができれば、観光だけでなく、越境ECを通じたその後の外貨獲得にも繋げていくことができます。訪日旅行の傾向が「団体」から「個人」へ、そして訪日外国人の消費傾向も「モノ消費」から「コト消費」にシフトしてきている昨今。ここで効果が上がりやすいのが「体験買い」に誘導する仕組みづくりです。近年、酒蔵見学ツアーが人気を集めていますが、これがまさに体験買いに結び付くコンテンツです。旅行者は、酒蔵見学を通じて日本酒造りのこだわりや生産者の思いを知り、その場での購入(お土産として)に至ります。例えばこの時、体験者が酒蔵の越境ECサイトで使えるクーポンを配布するなど第二の施策を講じることで、帰国後の継続購入に結び付く可能性が高まります。このように体験という「オフライン」と越境ECという「オンライン」を一つのコンテンツとして上手く繋げることで、その後のリピーター獲得に結び付けていく仕組みづくりが成功のカギとなります。
3.今後も伸びるの?中国越境EC ~特徴と今後の展望~
スマートフォンの普及によりインターネットが身近になり、気軽に海外の製品を購入できるようになったことで、越境EC市場は急速に拡大しました。経済産業省がまとめている報告からも、2020年のオリンピック以降も越境EC市場は下がることは一切なく、上昇傾向にあることが伺えます(表2)。
中国越境EC市場は、日本製品への高い信頼や税制上のメリットなどもあり、今後も継続的に拡大していくことが予想されます。中国の税制は複雑で、輸入されるものにかかる税金として、「関税」のほか「行郵税」、「増値税」、「消費税」といったものがありますが、越境ECで中国国内の保税区(税関が監督管理する特殊閉鎖区域)を利用するなど物流の組み方によっては「増値税」だけで済むなど、税制上のメリットも大きくなります。さらに越境ECはBtoBではなくBtoCであるため、国同士の政治的影響も受けにくいといったメリットもあるようです。
また、前述の越境ECと関連性の高い訪日客数についても、観光庁は2020年に4,000万人、2030年までには6,000万人との目標も示しており、中国からの訪日客数も増加が見込まれていますので、このチャンスを逃さないため、1、2で述べた仕組みづくりが、今、自治体に求められているのではないでしょうか。
(経済交流課 田村)
(引用等)
※1 経済産業省「平成30年度我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備(電子商取引に関する市場調査)」
https://www.meti.go.jp/press/2019/05/20190516002/20190516002-1.pdf
※2 農林水産省食料産業局「平成30年度農林水産物・食品の輸出額」
http://www.maff.go.jp/j/shokusan/export/e_info/attach/pdf/zisseki-166.pdf
※3 株式会社ACD