事例紹介

通訳者マッチングサービス「タビヤク」がインバウンドに貢献 ~地元の人材を通訳者として活用し、満足度・売り上げアップにつなげる函館の取り組み~

 

函館を訪れる人に絶大な人気のある函館山よりの夜景

 

 年間55万人の訪日外国人が訪れている函館。その半数は直航便のある台湾からの観光客です。函館にやってくる観光客のお目当ては、夜景と朝市。このことは函館市観光部が実施した観光動向調査アンケートの「函館を選んだ理由は?」との質問に対し、外国人観光客1,802人のうち、55.1%が「海鮮グルメを楽しみたいから」、50.4%が「函館の夜景を見たいから」と回答していることからも分かります。

 

 そんな函館観光の課題は「すでに函館がもつ観光コンテンツに肉付けすることで滞在時間を延ばしてもらい、消費拡大を延ばしていくこと」と、函館市観光部の柳谷瑞恵さんは、語ってくれました。

 

 函館市では観光案内のための「函館市外国人観光コンタクトセンター」というサービスを実施し、外国人観光客からの質問などに対応しています。電話での問い合わせは英語のみで9時~17時の対応ですが、メールでの問い合わせは24時間対応となっており英語、中国語への対応が可能。旅前に発生する質問や、旅行プランを作る手伝い、旅中に困ったことがあった場合の助言、観光スポットや交通情報の提供などを行っています。

 

 とはいえ、「函館市外国人観光コンタクトセンター」は観光客からの働きかけがあった際に対応していく受動的なもの。能動的に観光客に働きかけることができるものとして、函館市観光部も注目しているのが函館朝市の通訳サービスです。

 

函館を訪れた観光客が必ず立ち寄る人気スポット、函館朝市

 

 

インバウンド増加に伴い、積極的な誘致を決意

 JR函館駅に隣接し、約250もの店舗が軒を連ねる函館朝市は、新鮮な海鮮グルメを楽しむことができる人気スポットとして、多くの外国人観光客が訪れます。2016年頃から函館朝市でもインバウンド客が増えてきたことを実感し始めたそうですが、インバウンド客が利用するのは、その場で食べることのできる飲食店ばかり。海産物や農作物、土産物などを扱う他の事業者 からは「インバウンド客が増えたって、自分達には何も関係がない」「たまに店舗にインバウンド客が来ても、何を言っているか分からないし面倒なだけ…」そんな声が聞こえてきたそうです。函館朝市協同組合連合会で事務局長を務める松田悌一 (ていいち)さんは、「せっかく来ているインバウンド客の方と言葉が通じたら、もっと販売に繋げることができるはず」と考え、受け入れ体制整備のための取り組みを始めました。

 

函館朝市協同組合連合会事務局長 松田悌一 氏

 

受け入れ環境の基盤を固めるために実施したこととは

 2016年2月、はじめに取り組んだのは北海道運輸局と連携をして行った、アジア圏からのインバウンド客を対象としたアンケートです。調査結果から、「多言語での案内サービス」「免税対応」「クレジットカード等の対応」「検疫情報の提供」「海外宅配サービス」といった様々なニーズが浮かび上がりました。

 

様々なニーズに対応する総合インフォメーションカウンター

 

 この結果を受け、同年9月、外国人観光客にも対応した総合インフォメーションカウンターを、経済産業局の補助金制度を利用することで設置。場内の店舗紹介や、海外への宅配サービスの受付などを始めました。そのほかにも、各国 ・地域の検疫を通過できる海産物情報チラシの制作や、各店で利用可能なクレジットカードのステッカーの店頭掲示、外国人になじみの薄い商品の調理方法などを紹介するカードの作成、さらに、販売員向けにも海外の食習慣や消費行動、外国語の接客フレーズを紹介するマニュアルを作成するなど、受け入れ環境も少しずつ整えていきました。

 

自分の国や地域へ持って帰ることのできる海産物情報のチラシ

 

 しかし、全てがスムーズにいった訳ではありませんでした。語学や接客の勉強会を実施しても、なかなか現場で実践されなかったり、翻訳アプリを紹介しても「手が水で濡れている時に使いづらい」と言われ、それではと、レジ周りに置いておける紙の多言語の指差しツールを作成し配布しても、ただ置かれているだけで実際に使われる場面はほとんどないなど、朝市のインバウンドが劇的に変化する受け入れ対策はありませんでした。そんな中、通訳などの「多言語での案内サービス」は、すべての店舗の売上げアップに貢献していたため、そこに注力していくことにしました。

 

現地での通訳サービスを発展させ、新事業をスタート

 しかし、それまでの「多言語での案内サービス」には問題もありました。外部業者に委託して通訳者を派遣してもらっていたものの、通訳者に適切な賃金が支払われていなかったり、通訳者が勤務時間中に無断で休んでいても業者による指導がなされていませんでした。

 それなら自分たちでやってみたらいいのではと、スタートさせたのが新しい通訳案内者手配の仕組み「タビヤク」です。これは「旅に役立つ」の略語で、スマホやパソコンを使って、語学スキルの向上を目指す一般市民等の通訳者と、外国人客の需要の取り込みを図りたい商業施設とを仲介し、マッチングさせるサービスです。

 

函館朝市の売上に貢献する通訳サービス

 現在、この「タビヤク」に登録している通訳者は約20名。退職した人、学生、主婦のほか、牧師さんや英語塾の先生、一般企業の現役の方も週末や本業の空いた時間を利用して活躍しています。「地元のために貢献できて人生のやりがいになっている」「空いた時間でできるので働きやすい」など、タビヤクに登録する通訳者たちからも好評です。夏休みや冬休みなどで地元に帰省でした学生や、留学前の実践として短期間参加される方もいるそうです。

タビヤクには現在約20名が登録して活動している

 

 事務局長の松田さんは登録者について、次のように話しています。「タビヤクのスタッフには語学が完璧に話せる能力よりも、コミュニケーション能力を重視しています。言葉は翻訳機械で対応することができます。それよりも、どんなことで困っていて、どんな情報を知りたいと思っているのか。外国人旅行者の気持ちに寄り添ってコミュニケーションが取れることが何よりも大切だと考えています」。実際活躍している通訳者の中には、自分が得意な英語圏以外からのお客様が来た時のために、翻訳機を携え、中国語を話すお客さんに対応している人もいるそうです。通訳者が朝市を巡回し、外国人観光客に声をかけることで、馴染みのない食材の食べ方を紹介することで購入につながるなど、売上アップにも貢献しています。

 

市場のなかを巡回しニーズがありそうな場面で声をかける

 

 市では、外国人観光客を乗せたクルーズ船が函館に入港する際には、観光バスを手配して朝市へ送客。函館朝市も十分な数の通訳者を手配して、大勢でやってくる観光客の対応に当たるよう連携しています。市観光部の柳谷さんは「民間のこのような動きはありがたく励みになります。通訳者が朝市を訪れた外国人観光客に、彼らには馴染みのない商品の説明をすることで、函館観光の満足度アップや消費拡大にもつながっています」と話してくれました。

 

まとめ

 タビヤクの活動範囲は、函館朝市だけにとどまりません。最近では、タクシー会社とも連携し、例えば朝市に来たインバウンド客が「着物が欲しい」と言った場合にも対応しています。この場合は、インバウンド客が直接通訳者を雇う形となりますが、通訳者はインバウンド客と共にタクシーに乗り、近郊の商店街やショッピングモールで買い物を手助けします。

 

 函館港には今年度、52隻ものクルーズ船が入港する予定で、欧米諸国からの富裕層の来訪者も増えています。函館朝市で実施した取り組みや市民が通訳者として活躍する仕組みは、これからインバウンドの受入体制を整えようとしているエリアの参考になるのではないでしょうか。

やまとごころ編集部

※印刷用PDFはこちらpdf

Categories:インバウンド | トピックス | 北海道・東北

Tags: | |

Copyright © CLAIR All rights reserved.