三重県桑名市では、市内企業の視察団の受け入れ等を通じた「産業観光まちづくり」を推進しています。近年の人口減少やそれに伴う財政の硬直化問題から、本市では地方創生事業の柱として「インバウンド」を掲げ、「観光の産業化」を推進することとしました。
また、平成28年5月に開催された伊勢志摩サミット関連事業として「2016年ジュニア・サミットin三重」が、本市を主会場として開催されたことから、この国際事業の開催地としての知名度を活かしたインバウンド施策を推進する取組を本格的に始めました。
■産業観光取組の経緯
ジュニア・サミットにおいて協力体制にあった産官学の関係者の方々が集まり、「国際観光まちづくりKUWANA協議会」を立ち上げ、インバウンドをテーマに、毎月、会議を開催して議論を重ねました。会議では、事業に関するノウハウなどを持つ民間企業の話が議題に出れば、次の会議から当該企業にも参加してもらうなど、その輪を広げていくことに成功し、地域が一体となれる事業展開について話し合う機会を持ちました。
会議の中で、海外企業からの工場視察団を多く受け入れられている市内の自動車部品メーカーの話が話題にのぼり、その企業で実施されている視察団の受入ノウハウを活用することによって、他の企業でも同様の視察団の受入ができないかと意見が出されました。
市内で視察を受け入れる企業が増加すれば、視察団の滞在時間も伸び、市内の宿泊施設、飲食、買い物等のインバウンド消費に繋がることが期待されることから、産業観光ツアーを事業として展開していくことになりました。
■産業観光の取組内容
本市は、“モノづくり”が盛んな地域であり、様々な技術を持った中小企業やグローバル大手企業、中には200年以上も続く歴史ある企業等があることから、これらの企業の「製造過程」、「品質管理」、「人材育成」などをコンテンツに海外企業の経営者や管理職の方を対象に産業観光ツアーを試行的に実施しました。
その結果、平成28年度には、計15回の産業観光ツアーを実施し、365名の方に参加してもらい、市内での宿泊や飲食等から約一千百万円のインバウンド消費額が得られました。
そこで平成29年度には、一般財団法人 自治体国際化協会の助成金を活用しつつ、産業観光に特化した産官学の連携プラットフォームとして「桑名市産業観光まちづくり協議会」(以下「協議会」という。)を設立し、次に挙げるような産業観光まちづくりの政策について実施しました。基軸となる産業観光ツアーについては、市内の自動車部品メーカーを通じて、海外の企業と繋がりのあるエージェントに視察のできる市内企業を紹介し、昨年度に引き続き事業を継続しました。
次に、協議会に所属し、産業観光の推進に参画している企業を「桑名グローカルカンパニー」として市が認証する制度を構築し、企業のブランディングを行いました。
次に、産業観光事業に参画した企業について、市民にこの取組や企業を理解していただくPR活動として、地域の大型商業施設において「まち工場展」を実施し、企業紹介等のパネル展示を実施し、産業観光事業の認知度向上に努めました。
さらに、市内の中小企業にとって大きな課題となっている人材不足を解決していくために、市内の高校生や大学生等を対象に企業見学バスツアーを実施し、市内企業への理解を深めるとともに、地元に就職してもらえるような取組みも実施しました。バスツアーは、年2回程度実施し、毎年40名程の方が参加されています。
その他に、市内企業で、国内販路だけで海外への事業展開に躊躇している企業のうちから、インターネットを活用した海外販路開拓事業のプラットフォームを提供している企業と市が連携し、市内企業数社と試行的に事業を開始しました。この事業では、プラットフォームの活用方法をはじめ、貿易実務や英語でのやり取りの仕方などのセミナーを実施しています。本市では、この仕組みを活用し、市内企業の海外進出を支援しています。
■産業観光取組の成果
産業観光の成果としては、平成29年度は、632人の海外の方が視察に訪れ、インバウンド消費額が約九百万円でした。平成30年度は、11月末時点で既に476人の海外の方が訪れ、消費額約七百十万円になっています。
平成29年度には、協議会が日本観光振興協会主催「第11回産業観光まちづくり大賞」で金賞を受賞することができました。これを機に事業を広く周知していくとともに、さらにプログラムの充実と認知度の向上に努めたいと思います。
また、平成30年度には、産業観光ツアーを通じて交流できたエージェントによる観光ツアーを2件実施し、市内のゴルフ場、温泉や料亭などが非常に喜ばれることが分かりました。今後は、比較的閑散時期となるウィークデーにおいて、ゴルフ場のクラブハウスを活用し、さらなるインバウンドの推進に取り組んでいきたいと考えています。
■産業観光の課題と今後の展望
産業観光ツアーでの滞在時間の鍵を握る宿泊について、桑名駅近郊のホテル稼働率が非常に高いため、近隣の名古屋市で宿泊されるケースが多いことやこれに関連して、宿泊を通じての飲食等のインバウンド消費に繋げる仕組みづくりもまだまだ十分とは言えないと感じています。
今後は、産業観光に軸を置きつつも、より観光的な要素も加えながら、日本らしさの感じられる温泉や食事を提供できるように考えていきます。また、「産業観光」のポイントは産官学の連携にあると思います。今後も、協議会に参画する企業との関係基盤をより一層高め、企業の国際化や地方創生に繋がるインバウンド事業の展開を視野に置き、その基盤となっている市内企業の方々を支援していきたいと考えています。
(桑名市産業振興部観光文化課 課長補佐 黒田)