忍者は海外でも人気のコンテンツ。しかし伊賀市の知名度は高くなく、訪日観光に十分に生かしきれていなかった。三重県は、忍者=伊賀、温泉=美杉、鉄道=伊賀鉄道をつなげるきっかけを作り、3者が中心となり、これまで点であったコンテンツを線で結び、面として新たな商品を造成。地域資源を活性化する取り組みが始まった。
今回のポイント
1:三重県が強力にバックアップ、地元が主体の観光開発
2:忍者の里をキーワードに、伊賀が本家としてのブランディング構築
伊賀流忍者博物館を訪れた外国人観光客は、2004年度が3633人だったが、9年後の2013年度は、1万3661人と大きく増加している。総入館者に占める割合も、1.5%から7.2%にアップ。さらに昨年スタートした「忍者体験パック」という体験ツアーも外国人観光客に人気だという。
この背景には、海外の忍者人気があるのだ。ナルト、ハットリ君、伊賀の影丸などのアニメの影響がある。最近では、ゲームでの認知度も上がっている。世代を超えて愛されているコンテンツと言えそうだ。
日本人なら忍者の里といえば、「伊賀」と答えられるが、海外では知らない人も多い。
伊賀にとっては、せっかくのキラーコンテンツでありながら、訪日観光に生かしきれていないというのが現実だった。
そこで三重県は、美杉リゾート、伊賀上野観光協会、伊賀鉄道を交えた議論の場をセッティングした。そこから各事業者から多くの意見が上がり、忍者パック実施に向けてのスキームが出来上がっていった。三重県は議論の促進に努め、黒子に徹した。その結果、各事業者から多くの意見があがってきたという。
まずブレスト(※1)による意見出しが行われた。地元の観光資源は何なのかを次々と出していく。
これまで県が中心となって地域と地域を結び付けるような話し合いが行われる機会がなかった。今回は初めての試みであり、活発な意見交換があった。これにより津市と伊賀市のふたつの地域を鉄道で結び、広域連携のテーマ型ツーリズムが生まれた。
この議論の中で、観光資源を繋ぎ合わせてみたところ、新しいルートが見えてきたという。
そのルートを忍者の衣装で回ると面白いのではないかと斬新な意見な意見が出され、さらに実現可能かどうかも、参加メンバーによってすぐに解決した。
例えば、ホテルの出発前に忍者衣装に着替えて行くには、前日にはホテルに届ける必要があるが?
多くの衣装を持つ観光協会から、持っていけるという回答。(200着もある。)
忍者衣装を恥ずかしがって着てもらえないのではないか?
密書による指令というストーリーに仕立て、遊び感覚で参加してもらおう。
様々な課題について別の参加者がアイディアを出す。
最終的に「忍者体験パック」という体験プログラムが造り上げられた。
プログラムの内容は、美杉リゾートに宿泊し、まずは密書を受け取り、ミッションをこなす。
夜は忍者鍋を楽しみ、美杉リゾートが造る伊賀流忍者麦酒を探す。
翌朝は、忍者の衣装を身につけ、伊賀鉄道の忍者列車に乗って伊賀に向かう。忍者列車は松本零士のデザインによるものだ。車内では忍者グッズの販売など、鉄道スタッフも企画の盛り上げに一役買っている。
その後伊賀流忍者博物館を訪れ、忍者の歴史と知識を伝授。館内には英語と中国語をしゃべれるスタッフがいる。
忍者屋敷や忍者ショー、さらに手裏剣の体験もやり、ミッションが終了すると巻物「伊賀流忍術皆伝の巻」の認定書が忍者の頭領からもらえる。
お昼には終了する設定だ。
伊賀市では、春に「伊賀上野NINJAフェスタ」を開催している。忍者衣装の貸し出しは通年実施しているが、観光協会では、忍者体験パック用ロゴ入りの衣装を作り特別感を出している。
忍者パック成功の鍵となったのは、アジアを中心とした各国TOPエージェントと独占契約をしたことによるものと言える。美杉リゾートはインバウンド事業に取り組み始めて15年来のパイオニアで、各国エージェントとのネットワークを持ち、三重県内随一の集客を誇るホテルだ。同社が持つネットワークを活用して、三重県は、ホテル、観光協会、鉄道と連携した企画を、タイの旅行会社にセールスして、ファムツアー(※2)を実施した。またTITF(タイ・バンコクでの国際旅行展示会)にも出展し、同企画のPRに務めた。
その後、マレーシア、シンガポールでも同じように展開した。現在、タイ、マレーシア、シンガポール、インドネシア、台湾、香港、2014年11月からはフランスの旅行会社にファムツアー(※2)を実施した。それを受けて、フランスの旅行会社で商品化が実現した。
忍者体験パックは、実際にやってみて、インセンティブ旅行(※3)に人気が高いことがわかってきた。
研修旅行のチームビルディングとの相性が良い。全員で忍者の衣装を着ることは、一体感があり、ミッションを共同作業で進めるのも効果的だとか。
また、忍者体験パックは約1週間の日本旅行の中に組み入れて販売されるケースが多く、伊賀は名古屋、京都、大阪に回れることが立地のポイント。
ここ最近、台湾からの観光客が伸びたのは、インセンティブ旅行が増えたことが要因だと伊賀上野観光協会。
また、伊賀流忍者博物館には中国語スタッフがいるということも増えている要因だ。
「2013日台観光サミットin三重」が志摩市で開催され、サミット参加者は、県内の観光地を広く視察した。その中に、伊賀での忍者体験が組まれていた。忍者の里としてのプロモーションにつながったようだ。
伊賀市では、忍者の地域ブランディングのため、2014年には、中部国際空港(セントレア)、関西国際空港で「忍者発祥の地『伊賀市忍者』トリックアートパネル」を設置し、外国人観光客にアピールした。同協会は「ヨーロッパにも広げたい」としている。
(※1)ブレスト:ブレインストーミングの略で、会議方式のひとつ。判断・結論は慎み、自由な意見を次々と出し合う。
(※2)ファムツアー:Familiarization=「慣れ親しませること、熟知させること」という意味の略。観光地などの誘客促進のため、旅行事業者やメディア関係者を対象にした現地視察の招待ツアー。
(※3)インセンティブ旅行:企業のスタッフや代理店のやる気を引き出すための報奨旅行。成績の良い人が招待される。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/