鳥取県は、観光資源が豊富で、砂丘、温泉、果物など魅力が多い。さらに国際空港もあり米子ーソウル便、また韓国の東海市と境港を結ぶDBSフェリーがある。観光資源と2つの直通インフラがインバウンドにとっても強みの鳥取。恵まれた環境にあるが、2次交通という課題もあった。いかにして乗り越えていったのか紹介したい。
今回のポイント
1:外国人客が増えたことで、受け入れ事業者のモチベーションアップ
2:3者が費用を融通し合って、最大の課題を解決
2013年は、鳥取県にとってインバウンドの最高記録となった。宿泊を伴う外国人観光客が過去最高の約3万7000人を記録したのだ。
一方、タクシーの利用は、2012年度が500件、2013年度は970件と順調に伸びている。そして2014年の4~7月期は約430件と、前年同期の約2.3倍に増えている。
なぜタクシー利用が急増しているのか。
それは、鳥取市の外国人観光客なら誰でも使える、3時間乗り放題の「1000円タクシー」が人気となっているからだ。
鳥取市が訪日観光を意識するようになったのは、ここ数年だという。
それは2010年、韓国からのインバウンドを促進すべく、ロケ地の誘致が行われた。翌年の2011年に鳥取を舞台にした韓国ドラマ「アテナ」が放送され、盛り上がりをみせた。
そのときに課題としてあがったのが、2次交通の不便さだった。韓国からの旅行者はFIT(個人旅行者)が多いからだ。
鳥取砂丘、城下町、グルメスポット、ナシ狩り園など、市内に点在しているため、移動に時間がかかる。特に外国人にとっては、路線バスを乗継ぎできるのかといった心配もある。そこが解消されないことには、いくらプロモーションしても、満足度があがらずに、口コミで広がることも期待できない。
そこで、2次交通の課題に鳥取市は、正面から向き合うことになった。
まず、市が中心となって、外国人向け周遊バスを企画し、バス会社と相談した。しかし、残念ながら前向きな回答をもらえなかった。
次に、鳥取県ハイヤー共同組合に話を持ち掛けたところ、関心を持ってもらえたのだ。何度か話し合いを持つなかで、1000円タクシーの企画が持ち上がったという。
通常、市内を3時間かけてタクシーで周ってもらうと、約1万5000円はかかる。しかし、この料金では、外国人観光客にとっては、負担が重い。
そこで出た話が、3者による費用負担案だった。
タクシー会社には、法定限度額の9000円まで下げてもらうようにお願いした。さらに鳥取市が4000円、鳥取県が4000円を補助金として負担する。
残りの1000円のみをお客さんに払ってもらうという内訳だ。
当初は、この企画にドライバーたちが反対したが、何度もインバウンドの積極対応の必要性について説明したところ、ついには理解してもらえた。そして外国人向け1000円タクシーが誕生したのだ。
そもそも鳥取市では、外国人の受け入れについて消極的であった。日本人の需要が減るなかで、訪日外国人の呼び込みは重要であるものの、外国人へのおもてなしの意識が希薄だった。
まずは、外国人を多く呼び込むことを目的として、じかに接していくなかで考え方が変るかもしれない。
数字の上で損とか得とかいう問題ではないのだ。
2010年からの最初の約3年は、受け入れ体制の準備にあてた。
外国人サポートセンターを設立して、ここを窓口に予約を受け付ける。
また、整備したのが、観光マイスター制度だ。
観光マイスターでなければ、1000円タクシーのドライバーはできないこととした。試験は年に1回行われる。昨年は150名が試験を受け、合格したのは約半数だ。
座学、研修、筆記試験、実地試験が行われ、決して簡単には合格できない。鳥取の観光情報のほか、どこの店に行けば何を買えるのか、細かい知識も必要とされる。
観光マイスターは、タクシードライバーだけでなく、宿泊施設や商業施設の方々も試験を受けられる。
資格を取ってもらい、観光のエキスパートを育成させるのが狙いだ。まさに人材育成に力を入れたのだ。
その動きに併せて、2012年から海外でのプロモーションを本格化させた。
韓国を中心に、台湾にも足を運び、商談会や現地の旅行会社にセールスをした。
台湾人観光客が予想よりも伸びてきているという。関空経由の個人旅行者が、リピーター向けのプラスワンとして、ちょうど新しいデスティネーションを求めていたからだ。
乗り放題のジャパンレールパスを利用して、鳥取に足を延ばす需要が増えていた。
実際に外国人のお客さんが増えたことは、鳥取市にとっての起爆剤になったという。
タクシー会社では自主的に研修を行い、宿泊施設では多言語の案内表示を実施した。インバウンドへの対応が根付きつつある。
やはり、実際に外国人が来たおかげで、意識が変わるのだ。
1000円タクシーへの需要が増え、2014年からは、外国人サポートセンターがあいていない時間(※)でも、直接ホテルに呼べるようにした。通常は、外国人サポートセンターに予約を入れてから、所定のタクシー乗り場に行かなければならなかった。受け入れ体制の強化は今後も続く。
(※)受付時間:9時から18時まで 年中無休
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/