岡山市は観光素材に恵まれている。近隣に広島や神戸など、特徴的な観光地に挟まれながらも、存在感を打ち出そうと新たな取組を始めている。その一つがムスリム対応によるブランディングだ。内閣府の地方創生推進事業に採択され、受け入れ環境整備やプロモーションに力を入れている。
ポイント:
・岡山独自のムスリム旅行者にやさしいエリアを目指す
・ヘルスツーリズムという考え方はムスリム旅行とマッチ
■地域が連携してヘルスツーリズムで集客、その一つがムスリム対応
2016年、「岡山型ヘルスツーリズム連携協議会(事務局:岡山市産業観光局観光コンベンション推進課)」が設立された。岡山市、真庭市、吉備中央町や民間団体などと連携したプロジェクトだ。もともと連携が条件の内閣府の地方創生推進交付金の対象事業があり、要件を満たし、2016年から5か年計画で進んでいる。
岡山市内では、健康食品、運動など「健康」をテーマにした地域づくりをしてきており、その一環で市外からの集客を目的に「ヘルスツーリズム」を検討していた。
岡山型ヘルスツーリズムは、「健やかに楽しむ」をテーマに、どんな国籍のお客様にも岡山を楽しんでもらうためのプロジェクトで、独自の受入体制を整備するとともに、郷土文化や健康志向をテーマにした体験メニューを組み込むことを目指している。
岡山市は、両隣に神戸と広島という大きな観光地に挟まれ、埋没しかねない。そこで独自性を打ち出すために、今後ムスリム観光客が増えることを見込んで「ハラル対応」を掲げることとなった。
世界のイスラム人口は 2010 年に 16 億 人を超え、2030 年には世界人口の26% である22億人に達すると推計されている(アメリカのワシントンにある調査会社 Pew Research Centerの2011年調べ)。
さらにムスリム人口の国別上位 10 位のうち、4 位までがアジアであり(1位インドネシア、2位パキスタン、3位インド、4位バングラデシュ)、これらの国々の経済発展も目覚ましく、訪日観光にも期待されている。
岡山市では2005年からESD(持続可能開発のための教育)の取り組みを始め、現在もその活動を通じて、インドネシア・マレーシアから教育関係者等が岡山の視察に来ている。そのためムスリムへの関心が高く、ハラル認証取得にかかる勉強会を実施したり、祈祷室がホテル等に設置(2014年)されたりするなど、市内各地でムスリム対応が進んできた。
こうした背景を踏まえ、岡山市が連携中枢都市圏の形成を目指している近隣の行政に声をかけたところ、日本初のハラルパン専用のセントラルキッチンがある吉備中央町と温泉宿泊施設や観光体験の素材が充実している真庭市が手を上げ、連携する運びとなった。
日本では食の安全性に関心が高まっている。そのためハードルが高いムスリム対応に取り組むことで、健康食に対する考え方のボトムアップにつながることも期待していると市の担当者は言う。ハラル認証であるため、製造や加工およびその衛生管理が厳密で、トレーサビリティが徹底されているのだ。
■岡山独自の認定制度で、ムスリムに優しい観光地を目指す
プロジェクトの骨格の一つに受け入れ環境の整備がある。
同協議会では、健康とムスリムへの対応ができる宿泊施設や飲食店などを独自で認定する取り組みを始めた。認定の目印は「ピーチマーク」で、イスラムの戒律に沿っていることを示す「ハラル認証」を取得していなくても、豚肉、アルコールを使用していない等、ムスリムの受け入れに取り組む施設をわかりやすく示す狙いだ。
岡山市では、同協議会設立の3年以上前から地域でハラル対応を学び、2014年ESDに関するユネスコ世界会議の開催なども経験して、ノウハウが培われた。ハラル認証に限らない独自の受け入れ体制を構想するに至ったのだ。
また同協議会では、事業者向けの対応マニュアル冊子「おかやまムスリムおもてなしハンドブック」を制作した。飲食店や宿泊施設向けと、土産物などの製造事業者向けの2種類があり、無料配布している。
ハンドブックにはハラル関連情報のほか、一般的に外国人に好評である観光スポットとして、着物着付け体験もできる岡山城のほか、ムスリムの多いマレーシアで人気の高い猫をテーマにした招き猫美術館(岡山市)などを掲載している。
ムスリム向けガイドの英語版を作製し、マレーシアで開かれた同国最大の観光展MATTA FAIRやインドネシアのGaruda Travel Fairに出展して、一般の参加者や旅行業者らに配ったという。
■自然と文化、交流の象徴、体験型素材が好評!
同協議会は、次にファムツアーを実施した。
2016年度は2回、2017年度は8月に実施し、マレーシア、インドネシアから現地旅行会社のスタッフ、メディア関係者を招聘した。
モデルコースではヘルスツーリズムのポイントが押さえられていて、ハラルの食事や礼拝の設備はもちろんだが、彼らが望む自然、歴史、体験、交流なども重視した。
農家民泊の視察では、農家の方々には事前にハラルを勉強してもらい、ムスリムの方々へ調理方法も伝授した。日本食との親和性があり、スムーズだったと農家の奥様方は言う。提供した岡山の郷土料理は地元の有機野菜を使い、肉はあまり使わないものであったが、もともと豚由来やアルコールを含んだものがなく(醤油は除く)、普段の家庭料理でも十分だとわかった。
この他、餅つき大会も同時に行い、交流を楽しんだという。
一方、別の観点からは、食事対応が不十分だという指摘もあった。
例えば、ホテルの朝食についてだ。ビュッフェスタイルになっていて、食事内容の掲出が不足しているため、どれを食べて良いか判断に困ったそうだ。
昼飯や夕食では、ハラル対応のお店を選べば良いが、ホテルの朝食は選べないので、重要なポイントとして、次回の改善点となった。
このようにモデルコースを作り、ファムツアー(メディア・旅行関係・ブロガー等の招へいツアー)を実施して課題を見つけ、そして改善していく。その繰り返しが大切だ。
現状は種まきのタイミングのため、まだ大きな成果に結びついていないものの、「岡山といえばムスリムに優しい街で、立ち寄りたくなるようにしたい。」と、プロジェクトを推進する岡山型ヘルスツーリズム連携協議会の担当者は言う。今後の成果が楽しみだ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/