事例紹介

陸前高田では、学びがテーマの「震災復興視察ツアー」を外国人に実施中

東日本大震災で壊滅的な打撃を受けた陸前高田市では、復興に向けた取り組みが現在もなお続いている。2014年から震災当時に支援をした多くの国々から、復興の様子を知りたいという声を受け、視察ツアーを開始した(それ以前も臨機応変に対応もしていた)。視察ツアーの受入整備の一環として、陸前高田市は構造改革特区の認定を受け、国家資格を持っていなくても活動できる「陸前高田市認定通訳ガイド」を認定する制度を作り、地元の在住外国人によって当時の状況や復興の取組みを生の声として伝えることができるようにした。陸前高田では視察ツアーの新しいスタイルを進めている。

奇跡の一本松は、陸前高田の復興のシンボルだ

奇跡の一本松は、陸前高田の復興のシンボルだ

ポイント:

・震災の復興という特殊な状況だからこそ、視察ツアーの意義が高い
・特区制度を活かして地元の外国人が地域ガイドになった


■震災時に支援を受けた海外の人々へ現在の復興の姿を視察ツアーで伝える

2011年の東日本大震災では、岩手県の陸前高田市も非常に大きな被害を受けた。大津波等による死者(不明者含む)は1,757人で、人口の7%以上が失われ(2014年6月時点)、家屋倒壊数は3,341軒で、市街地のほとんどが失われてしまったのだ。約7万本の松が津波で流された中で1本だけ残った松が、奇跡の1本松として海外でも報道されたほどである。

当時、国内はもちろん、海外からも多くの支援を受けた。現在は復興の道半ばではあるが、現在の様子を支援した国や地域に対して見てもらいたいという想いが、この地域にはある。実際に、支援した国からの視察の申込みも多く、積極的に受け入れをしてきた。

シンガポールからの義援金によって建てられたコミュニティーホールのメインホールは「シンガポールホール」と名づけられた。そこにシンガポールの団体を案内すると、大変喜ばれたという。義援金が地域の復興に役立っていることが実感できたのだろう。

コミュニティーホールはシンガポールからの支援によって完成

コミュニティーホールはシンガポールからの支援によって完成

「海外からは年間約500名の視察ツアーを案内しています」と陸前高田市の商工観光課の担当者は言う。一般社団法人マルゴト陸前高田は、2014年4月、陸前高田市観光物産協会内の専門部会として発足、2016年4月一般社団法人として独立した団体だ。市が視察の問合せ窓口になっていて、一般社団法人マルゴト陸前高田が実務を担っている。
視察ツアーの詳細プログラムは、マルゴト陸前高田が視察を申し込んだ海外の団体と連絡を取り合ってカスタマイズしていく。

陸前高田市は視察客にとって、「学びの場」「研究の場」「防災学習の場」となっている。通りいっぺん見て回るというより、じっくりと歩きまわる長期滞在者が多いそうだ。

「学びの場」としては、ハーバードやプリンストンなど名門大学も含む主に欧米の大学からの視察を受け入れてきた。特に近年、地震・津波リスクへの意識が高まっているアメリカ西海岸の大学からの視察団などは、他人事ではないと感じたのではないかと、マルゴト陸前高田の担当者は言う。

学生らに対しては、陸前高田の復興における課題をオープンに伝え、解決方法を参加した学生たちに議論し、提案してもらうという試みを実施した。教訓や事実を現場で学び、その先は、議論をすることで深めていくのだ。
学生からの提案は実際に市に提出し、その後、提案の採否やその理由など市からのフィードバックも参加者に伝えた。

また、修学旅行生向けの民泊の仕組みづくりも行っている。
現在(2017年4月)、150軒の家庭が協力しており、高校生だと300人の受け入れが可能だ。そのうち外国人の受入れ可能な家庭も20軒ほどあるという。民泊の受入れ体制整備にあたっては、県の指針にしたがって、マルゴト陸前高田が窓口機能を担っている。

■地元の外国人材を活用して生の声を届けたい!

外国からの視察受け入れは当初、市の英語対応可能な職員が対応をしていたが、視察対応のためにその他の業務が滞ってしまうという課題があった。

そこで陸前高田市は地域ガイドという特区制度をつくった。国家資格がなくても市内限定で有償の活動が可能となり、彼らに視察ツアー対応を担ってもらうことができるようになった。この制度については、市が2016年6月、東北で初めて構造改革特区の認定を受けた。
従来でも、少し離れた仙台や盛岡には国家資格の通訳案内士が在籍しており、依頼すればガイドを呼ぶことはできた。しかし、陸前高田へ呼ぶのに交通費がかかってしまう。また、地元民による「生の声」を海外に届けたいという想いがあった。

ガイド研修で座学に一生懸命耳を傾ける

ガイド研修で座学に一生懸命耳を傾ける

地域ガイドを養成するため、市は2016年9月から3カ月間、研修を実施することになった。地元で英語等、通訳できる人材はあまり多くないため、市は希望者を募るだけではなく、市内に住む約100人の外国出身者の中から、ガイドの適正がありそうな人にも声をかけた。

研修カリキュラムは市の情報、震災復興計画、漁業や農業、地理歴史、観光地の情報、通訳の心構えなどの座学に加えて、実習ではカキの養殖を見学するため船に乗り込んで、カキ漁を体験。他に果樹園での農業体験やお寺での住職による講話等もあった。
カリキュラムの大枠は市が立案して、細かい内容は、委託先であるマルゴト陸前高田が担った。

地域ガイドの認定試験は11月に行い、外国出身者3名を含む計4名が英語と中国語のガイドに認定された。外国出身者は、何れも生活の拠点が陸前高田で15年を超えている人材だ。

■視察ツアーの内容をバージョンアップする時期になった

ツアー内容は、震災での教訓や復興の取組についての学びが多く、ガイド自身も被災者なので、自分の言葉でかみくだいて説明をすることで、臨場感のあるガイドが可能となっている。

海外からの視察ツアーで英語で説明する地元のガイド

海外からの視察ツアーで英語で説明する地元のガイド

陸前高田市では、長くかかっていた市街地のかさ上げ事業も落ち着き、復興の取組は次のフェーズに入ろうとしている。地元でホテルを経営する松田修一氏は、住民はいつまでも被災地だという意識ではいけないという。「やっと復興のスタート地点に立てた、これから新しい仕掛けも考えていきたい」と言う。

また、マルゴト陸前高田の担当者も、ツアー内容について「学び」だけではなく、地域の漁業体験など、レジャー要素も加え、バージョンアップしていかないと集客が減っていってしまうと危惧している。次の一歩に向けた取組に注目したい。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 北海道・東北

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