山口県萩市には、4カ所もの重要伝統的建造物群保存地区があり、そこが外国人観光客に人気になりつつある。日本人は、特定の史跡などをピンポイントで訪れるが、外国人はエキゾチックな景色を好む。それをゲストハウスがハブとなって後押しをしている。
ポイント:
・文化庁に認定された重要伝統的建造物群保存地区が観光コンテンツに
・ゲストハウスが情報のハブとして町並みの魅力を伝える
■インバウンド獲得を目指す山口県萩市
山口県萩市には、2015年7月に世界文化遺産に登録された「明治日本の産業革命遺産」がある。「明治日本の産業革命遺産」は全国に点在しているが、萩エリアには萩反射炉、恵美須ヶ鼻造船所跡、大板山たたら製鉄遺跡、松下村塾、萩城下町の5つがある。
そこで、萩市では、2015年からインバウンド客誘致にも力を入れ始めている。
ここ数年は、外国人旅行者が自然増となっているが、今後は、さらなるインバウンドの獲得に積極的に取り組んでいきたいと意欲が高い。
2015年度は、外国人宿泊客を対象に、彼らが何に興味があって萩に来たのか、どういった場所を訪ねているのか等、現状分析を実施した。というのも、これまで、外国人観光客の誘客に向けた判断材料になるような資料が不十分だったからだ。2015年度中にはその資料をまとめ、次年度の受入整備強化の手掛かりにしたいと考えている。
一方、街中では、外国語の看板の掲出、多言語でのルート案内、wifiスポットの設置等の受入整備も進めている。さらに外部から講師を招いてインバウンドのセミナーを開くなど、インバウンドへの意識が高まりつつある。
■エキゾチックな昔ながらの町並みとゲストハウス
「外国人は、古い町並みを歩くのを好まれます。」そう答えるのは、ゲストハウス「ruco」を営む代表の塩満直弘さん。萩市にある重要伝統的建造物群保存地区(※1)が外国人には魅力的なのだ。
※1:伝統的建造物群保存地区は、市町村が条例を定めて地区決定し、これを国(文化庁)が「重要」伝統的建造物群保存地区として選定するというプロセスになっている。
日本人は幕末に関連した歴史的な場所を好むが、外国人は、歴史的なものよりエキゾチックな古い町並みの雰囲気を好む。歩いていると、古民家の前に「みかん」が置いてあり、自由に持って帰ることができる。いわゆる、収穫のお裾分けだ。そういった昔ながらの雰囲気に心を打たれる。
また、外国人が増えつつある理由に、ゲストハウスの存在も一役買っている。ここを拠点に古い町並を散策する人が増えたからだ。
rucoの塩満さんは、もともと萩の出身だが、関東方面で働いていて、Uターンをしたという。
2012年に物件探しを始め、その翌年に、今の場所が見つかったという。そして、そこで、山口県内初のゲストハウスを開設した。
塩満さんは、「市内にはいくつもの観光地が点在するが、普通の暮らしもあり、そこに価値がある。」という。観光地以外の萩の町並みを散策して楽しんでもらうことが、ゲストハウス開設時からの想いだ。
つまり、ゲストハウスが外国人観光客と昔ながらの町並みをつなぐハブの役割を担いたいというわけだ。
そのような想いから、例えば、家具屋さん、着物屋さん、窯元、蔵元など、近隣のオススメしたい場所とはあらかじめ連絡をとっていて、外国人を案内している。その際は、宿にあるマップを持って自力で行ってもらうことにしている。というのも、思いがけない発見や出会いを含めて、より萩のエキゾチックな町並みを楽しんでもらいたいと考えているからだ。
さらに2014年には、古民家のゲストハウスもできた。萩市内の重要伝統的建造物群保存地区の浜崎町にて営業中だ。小さな隠れ家風で、オーナーが一人で作ったという。
外国人客は、欧米からのお客さんが多く、最近はアジアからのお客さんも増えてきた。連泊するケースが多く、萩の町並みを散策し、写真をたくさん撮影するという。その際、市で作成した英語のマップが喜ばれているようだ。
■昔ながらの町並みを守るための萩市の取組
萩市には、重要伝統的建造物群保存地区が4箇所もあり、ひとつの市町村でこれほど多いのは京都市と金沢市とここだけだ。
堀内と平安古、港町の浜崎地区、そして旭地域の萩往還沿いの宿場町の佐々並市4つが国の選定を受けている。
では、なぜ、これほど市内に多くの重要伝統的建造物群保存地区があるのか。
「萩市は町並み保存に古くから取り組んでいて、その積み重ねの結果として保存地区が多いのではないか。」と、萩市の文化財保護課の担当者は言う。
具体的には、萩市では、住民と一緒になって町並み保存を進めている。町並みを維持するために、「現状変更」が許可制となったことで、無許可なものを建てられなくなり、古い建物を一存で解体することができなくなった。その代わり、古い建物の修理には、高率の補助金が交付されるのだ。
また、看板の規制も強いという。
看板の赤や黄色を地色と文字色を反転してもらったり、面積を少なくしたり、場合によっては赤の明度、彩度を下げてもらったりする場合もあるという。
また、コンビニやロードサイド店の建植看板が空に突出しないように、建物の高さを超えない範囲に押えてもらっている。
看板規制によって、瓦の黒や周囲の山の緑、水面の青、夏みかんのオレンジなどの
本来の町の色が活き、エキゾチックに映るのだろう。
ただし、外国人の受け入れには、課題も多く残る。
萩市の場合は、交通が不便で、外国人に対応した宿が少ないといったようなインフラ問題が大きい。そこをいかに改善していけるのか。
また、保存地区の場合、単体の文化財ではなく、いろいろな人が暮らす多様な要素の
ある町並みなので、その魅力を一言では説明できない。いかに訴求するかも課題だ。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/