福島県中通り中部に位置する郡山市。交通の利便性の良さから「陸の港」とも称され、「人」「モノ」「情報」が集まる中核市として知られています。同市は近年、梨を中心とした地元特産品の海外販路拡大やブランド力の向上に精力的に取り組んでいます。今回は、その取り組みについて、郡山市・園芸畜産振興課にお話を伺いました。
■地元特産品の海外販路拡大に注力することになったきっかけは何ですか?
国が2019年の農林水産物・食品目標輸出額を1兆円に設定し、輸出拡大を図っていたことを背景に、2017年度に当課の「6次化推進係」が「6次化・輸出推進係」に改編され、郡山市としても輸出推進体制が強化され、同年に初めて、郡山市の特産品である梨の輸出を福島さくら農業協同組合(以下、JA福島さくら)がスタートさせました。そして、2018年度にジェトロ(日本貿易振興機構)福島と共同で、初めて輸出関連事業(ハンガリーバイヤー輸出商談会)を実施しました。
本事業を通じて得られたノウハウや、当課とジェトロ福島との連携関係が築かれたことなどがきっかけとなり、新たな輸出推進事業として、2019年度に「こおりやま広域圏農産物等輸出創出事業」を起こすこととしました。
■「こおりやま広域圏農産物等輸出創出事業」について教えてください。
郡山市は、周辺市町村それぞれの広域的・国際的連携等を視野に入れた主体的なまちづくりを実現するため、福島県の中心部にある14の周辺自治体とともに、2018年9月に連携中枢都市宣言を行い、「こおりやま広域連携中枢都市圏」(以下、こおりやま広域圏)を形成しました。「こおりやま広域圏農産物等輸出創出事業」は、郡山市だけでなく、周辺自治体も巻き込んだ海外販路開拓テストマーケティングの実施を目的としたものです。
郡山市としてのメインの特産品は梨です。ターゲット国については、ベトナムに設定しました。その理由としては、2017年度より郡山産梨がベトナムへ輸出されていたこと、原発事故に起因する福島県に対する風評や輸出規制がないこと、アジアの中でも成長著しく将来性が見込める市場であること、郡山市内の専門学校に多くのベトナム人留学生が通っているなど人的な交流があることが挙げられます。
具体的には下記の取り組みを実施しました。
①ベトナム人留学生へのヒアリング調査
梨も含む、こおりやま広域圏で生産される食品の中で、どの品目がベトナムに受け入れられるかを調査するため、郡山市内で試食会を実施。
郡山市内での試食会の様子②
②現地飲食店アプローチ・テストマーケティング(@ベトナム)
ベトナムの食品取扱事業者への事前ヒアリング実施。また、ベトナム国内で食品取扱事業者向けの試食会を開催し、アンケート及びヒアリングを実施。
③梨セールス(@ベトナム)
ベトナム国内のイオンモール(2ヶ所)にスタッフを配置し、郡山産梨の販売促進活動をJA福島さくらと共同で実施。
④オリジナル梨スイーツ販売(@ベトナム)
郡山産梨の生食以外の消費可能性を調査するため、ベトナム国内のスイーツショップ(ホーチ ミン高島屋内)と連携したテストマーケティングを実施。
■事業を通じて得た手ごたえについて教えてください。
2019年度の事業実施時には福島県産牛肉を初めて正式にベトナムへ輸出できました。牛肉以外では、テストマーケティングが主な目的であったため、年度中に商品登録・輸出に至った商品はありませんでしたが、本事業をきっかけとして2件の有望な商談が生まれ、翌2020年度にはうち1件が商品登録・輸出となりました。もう1件は現在商品登録が進んでおり、完了次第、輸出予定です。
また、2017年度に始まった郡山産梨の輸出について、それまでは市としての支援ができていませんでしたが、本事業で、JA福島さくらと共同で実施した現地プロモーション活動を通じて、ベトナム市場に関する知見を得られたこと、また、同組合との協働体制を構築できたことは、翌年度以降の活動の弾みとなりました。
■逆に、事業を通じて実感した今後の課題について教えてください。
ベトナムで味や品質が評価されても価格面で折り合いのつかないケースが多かったのですが、価格勝負になってしまうと、地元の中小企業にとっては厳しいです。そのため、例えば抹茶フレーバーなど、現地にない日本らしさや機能性を打ち出し、差別化した商品づくりも必要であると感じました。 また、一目で日本産と分かるパッケージやネーミングへの変更など、現地に合わせたカスタマイズが必要と判断された商品もあります。
梨に関しては、日本産よりも大幅に安い価格の韓国産梨がベトナム市場にかなり出回っているため、その中でどうアピールし販売拡大に繋げていくかが課題です。
■事業実施に際して苦心したことは何ですか?
まずは事業に参加していただく事業者を公募するところから始まりましたが、輸出へ取り組んでいる事業者が非常に限られていましたので、食品関係の事業者を1社1社訪問して参加者を募りました。 輸出を実現するには、当事者である参加事業者との関係性を構築することが肝要ですので、密にコミュニケーションを取ることを心掛けました。
ベトナムで実施したテストマーケティングのイベントや梨のセールス活動は、事前準備を現地任せにせざるを得ない部分が多く、ベトナム入りしてからの現場合わせで苦労しました。実際に取り組んでみると多くの反省点がありましたが、それ以上に学ぶ点も多くあったと感じています。
■コロナ禍で販路拡大を推進していくにはどういったことが必要でしょうか。
2019年度にはベトナムへ渡航し現地で活動できましたが、2020年度は新型コロナウイルスの影響で渡航すらできない状態でした。そのため当初の予定を変更し、商品サンプルだけをベトナムへ送り、現地エージェントに動いていただく形で商談活動を継続しました。 また、2020年度に成約した2件の商談は、現地バイヤーと事業者をZoomで繋いで実施し、日常的な連絡についてはSNSなどを活用しました。 この経験から、コロナ禍で販路拡大を推進していくには、今回のように現地で継続的に活動を任せられる人材を確保することや、Zoomなどのオンラインツールを使うことが必要だと考えます。
また、事業実施にあたっては、発案段階からジェトロ福島と協働し、さらに現地プロモーション活動等においては、JA福島さくらにもご協力いただきました。関係団体や地元事業者の協力なくして、本事業を実施することは不可能だったと考えています。コロナ禍の今だからこそ、コロナ後を見据えて、関係者との連携をより密にすることが重要ではないでしょうか。
■今後の展望について教えてください。
郡山産梨に関しては、ライバルとなる韓国産梨との差別化を意識した販売プロモーション。そして、その他の輸出が実現した商品については、現地での消費を促し、継続的な輸出取引に繋げることを目的に、現地の卸売業者や飲食店・小売店とタイアップした販売プロモーションを想定しています。コロナの状況次第ですが、現地バイヤーを郡山市に招聘することも検討中です。 また、ベトナム以外の国への将来的な販路開拓を目指すため、品目毎に輸出に適した国や地域を調査することも検討しています。
コロナの影響で先行きが見通しにくい状況ではありますが、引き続き、地元事業者や関係団体と議論しながら、地元特産品を世界に発信していきたいと考えています。
(現シンガポール事務所 所長補佐 児玉(元経済交流課 主査))