●はじめに
新型コロナウイルス感染症の世界的な流行により、昨年からオンライン商談会の開催が増え、また感染拡大の長期化によってオンラインでの開催が続くことが見込まれます。
そこで今回は、「オンライン商談会 成功へのポイント」について、自治体との海外販路開拓で多くの実績とノウハウをお持ちの株式会社フォーバル 広幡 勝典様にお話を伺いました。同社はクレア・プロモーションアドバイザーにもご登録いただいております。
株式会社フォーバル 広幡 勝典氏
●株式会社フォーバル様の事業内容を教えてください。
弊社では海外展開コンサルティングを行っていて、直近3年間では2019年は17事業、2020年は19事業、2021年は23事業で全国の自治体と各県内事業者の海外販路開拓及び輸出支援の仕事をしています。
今年度はおよそ19自治体、23事業を受け持っていまして、年々増えている状況です。7年間、5年間、3年間など、継続して受託する自治体が増えています。
弊社では、コロナ前、5年くらい前から、SkypeやZoom、LINEなどの他のツールを使ってオンラインでの様々な商談を提供してまいりました。
弊社も支援当初は、失敗だらけで支援事業者様から「こんなの商談にならないよ」「こんなのやる意味ないよ」というクレームやお叱りなどをかなり受けました。その経験を活かし、支援事業者様の商品を如何にPRすれば良いのか、どのような商談設定をすれば良いのかを考え、実施してきた方法をブラッシュアップして現在の方法にまで改善してきました。
当社がご支援すれば必ず商談がまとまるわけではありませんが、こういう方法もあるということを参考までにお話させていただきたく思っています。
●最大のポイントは“事前準備”と“目標を明確にすること”
オンライン商談を成功させるポイントは、「最終的な目標」決め、目標達成のためのプロセスである「商談前の情報収集と事前準備」を実行することだと思います。
最終的な目標は、もちろん「売上げ」をあげることなのですが、自社の商品の特徴(強み)を活かして「誰からの売上げ」をあげるのかを決めておくことです。
目標を定めた上で売上げをあげるために必要な「買い手=最終消費地(者)」に商品が正しく届くルートを確保する必要があります。正しく届くルートとは、自社の商品の特徴(商品の物語、厳選された原材料、安心・安全な製法など)が伝わり、最終消費地(者)が「次も買いたい」と思わせるルートのことをいいます。
ちなみにオンライン商談において、初回の商談で取引成立できる確率は低いと考えていただいた方が良いかと思います。ただ、目標達成のために事前に準備を進めておけば、成約の確率は格段に上がります。
●オンライン商談会を取引につなげる8つのSTEP
STEP1 市場のニーズを調べる
今回は食品にフォーカスしてお話します。食品は自動車部品などと異なり、食べて、見ればわかるので非常にわかりやすい商品になっています。
買ってくれる人がどういう属性なのか、最終消費地が小売店なのか、飲食店なのかによって売る商品形態を変える必要があります。
小売店であれば消費者向けになるので、手に取りやすいパッケージになっているのかどうかがポイントになり、業務用であれば現地で取り扱いやすいように一次加工がされているかを気にする必要があります。あとは最低ロットがどれくらいなのかの情報も必要です。こういったものを決めるときに相手側がどういう人なのかわかっていないと”とんちんかんな商品”を売ることになります。
現地の買い手となる人たちがどういう人たちなのかわかっている会社(バイヤー)に頼まないと、売ることができなくはないですが、うまく成果があがりません。
その為弊社が支援するポイントとしては、売り手である日本の企業のことをよく知り、現地の買い手の人たちのことをよく知っている会社(バイヤー)とうまくマッチングさせることになります。
STEP2 サンプルを送る
売り手の方は現地のどこで売るかを決めて、市場のニーズを知ってもらったうえで、脈があると思われるバイヤーを弊社がリストアップし、サンプルを送ります。
STEP3 現地のバイヤーに商品を評価してもらい、改善点を見つける
サンプルを送ったら、いきなり商談ではなくバイヤーに事前の評価をしてもらいます。可能な限り扱われている商品・アイテムを全て一回見せることが大切です。
例えば日本酒だと、大吟醸酒もあれば純米酒もあります。銘柄がそれぞれにあって、複数のアイテムがあります。その中のこれを売りたいというのはわかるのですが、現地の買い手からすれば「こっちではない、あっちを買いたい」となることが多くあります。よって、サンプルを送る際は複数のアイテムを送る必要があります。
現地バイヤーから評価をもらう目的は、「どうすれば取引につながるか」「即断できない理由、課題は何か」を明確かつ詳細に評価してもらうことです。
これまで現地のイベント、見本市等への出店時のアンケートを段階評価(5段階等)で行っているケースが多くみられましたが、本当に必要な評価は、取引するためにクリアしてほしい課題、現地市場動向(トレンド)に合わせた改良点、条件に応じた価格面の交渉の有無等だと思います。
この点をクリアするためには、事前にサンプルを送り、事前に評価を回収して商談までの解決案を検討できる機会、段階が必要であり、前に申し上げたプロセス「商談前の情報収集と事前準備」になります。
扱っている商品・アイテムをバイヤーにできるだけ見せることがポイント
STEP4 売り手へのフィードバック
バイヤーが食べた感想、見た感想、手に取った感想を売り手に見てもらいます。
バイヤーは当該商品を販売するために、「現行のままの商品では…」と考えています。例えば、パッケージ、量、質(味)、条件等についての考えを持っており、Step1~Step3までの行程を踏むことで現地のバイヤーとはコミュニケーションは密になり、その間に「この商品に対しての購買欲はあるのか」がわかってきますし、商談設定に合意を頂けるバイヤーは基本的に購買欲のあるバイヤーということになります。
極端な例を挙げれば、ようかんに対して現地の人は「黒いゴムみたいなものをなんで日本人は喜んで食べているのか」と思っています。でも、ようかんの色を緑やピンクにするだけであんこがおいしいので海外の人も買ってくれる可能性があがります。打ち出し方を変えたら売れる可能性があがるのです。
でも、自分の店は江戸時代から続く老舗だからやり方を変えないといってしまえば、海外販路開拓を進めることは難しくなります。
現地と日本の食習慣は異なります。郷に入れば郷に従えで、現地の気持ちを真摯に受け止める企業でないと海外販路開拓は難しいです。弊社はバイヤーの評価をフィードバックする時には特に悪い点を伝えるようにしています。
サンプルのフィードバックを共有し、1回目の商談会へ備える
STEP5 1回目の商談会
事前のフィードバックをもらっていれば、商談会で「当社はこういう対応をしようと思っているんだけど、どう思う?」と商談で提案することができます。バイヤーは「日本の会社が本気で現地で売ろうとしていて、自分たちの意見を取り入れてくれている」と評価が上がります。商談の時に仮説でもよいから答えられるように準備しておくとよいと思います。
一番重要なのは価格です。例えば500円で売りたいと商談会で伝えた時に相手から450円なら買うと言われることがあります。その時に、安くするためにはどういう条件の取引であれば可能なのかを相手に提示するだけの準備が必要です。例えば、ある商社を通してほしい、発注ロット数を増やして欲しいなどの条件を整理してください。
自治体の海外商談会に参加する企業の多くは中小企業で、自分で輸出した経験のない人がほとんどです。日本で流通させる国内価格は持っているけれど、海外に送ってもらうとなると商社などのエキスポーターを通して輸出することになります。エキスポーターへの料金も踏まえて、輸出する価格を決定しなくてはいけないので、その場で価格提示できるようにしなくてはなりません。できれば、商談会でエキスポーターにも参加してもらうとさらに良いです。
STEP6 1回目の商談会の振り返り
初回の商談後、追加の課題や商品、小売りの方法に対する質問が必ずでてきますので、これらを持ち帰って対応するフェーズがでてきます。解決後、弊社が2回目の商談をセッティングします。
STEP7 2回目の商談会
この時には必ず、日本の送り手になる商社に同席してもうことが望ましいです。取引が開始になったとしても、現地の人も売れるかわかりませんし、市場に出してみないとわかりません。なので、市場に出た時の販促の方法を決めないといけません。初めの取引では、ほぼほぼ最低ロットの発注になります。いきなり大量に発注して売れ残ると在庫になるので、可能な限り最低ロットでの発注が多くなります。
ここで一番重要なのは、一発目の発注ロットをさばくということに対して、売り手としてどういう協力ができるのかを現地の商社に伝えておくことが必要になります。食べさせ方や調理の仕方はさることながら、日本ではこういう媒体、例えばSNSが多いのですが、SNSでプロモーションをしているなど、そこでの集客の助けをしてあげるなどですね。動画にしたものを現地の小売店に渡し、小売店のSNSで使ってもらうなどで周知することもあります。お金があるならばイベントを組めばよいですが、イベントは量と収益が伴ってきてからでよいかと思います。
メーカー・商社・現地バイヤーなど多くの関係者に同席してもらうことが望ましい
STEP8 取引を続けるため、継続してコミュニケーションをとる
最低ロットを売り切った後、現地の関係者から売り切った感想を聞くことも必要です。そして、継続的に販売していくことを話し、コミュニケーションを続けていくことが大切です。
英語で海外の業者に対応しなくてはならないため、対応が国内の業者より遅くなることも多くあります。できるだけ、早く返事をするようにしましょう。
企業の取引を安定するために、継続したコミュニケーションが重要です。
●オンライン商談会は今後も続くでしょうか。
新しいビジネス様式として、現地の方々がオンライン商談会に慣れてきました。日本で食品の展示会をよくやっていますが、わざわざ日本に売れる商品を探しにくるバイヤーであればいいのですけど、こちらから会いたいと思うバイヤーは年がら年中、日本の商品を探しているわけではないです。スケジュールを調整して、日本人のために時間を合わせて、今まで商談していました。ただ、取引を決めるまでには2~3回は商談しなくてはなりません。2~3回、日本へ飛べるのか、また取引できたとしても最低ロットしか発注できないとなると、費用対効果として合いません。
オンライン商談会のコストはお金の面でも、時間の面でも節約できます。
コロナ禍でオンライン商談のみで取引を成立できることを各バイヤーがわかってしまったので、オンライン商談は今後も継続していくと思います。
オンライン商談会の現場
商品説明の様子
●自治体の失敗事例はありますか。また自治体はどのような支援をすればよいでしょうか。
失敗事例の1つめは、単発、単年度で切れてしまうことです。1回きりの商談などは取引まで続かないです。
2つめに、いつも同じ事業者、同じ商品であることが挙げられます。日本の商品を特化して買う人は限られているので、同じバイヤーにいつも同じ商品を見せていては、取引につながりません。
3つめに、「県で売れたから」、「県の名産だから」という理由だけで売ろうとしても海外では売れません。価格、味、パッケージなど、販売する現地に合わせて売り手がカスタマイズできる環境を作ることをサポートすることも大切です。
自治体には過去、海外の商談会に出展したノウハウがあると思うので、どの商品が売れるのか自治体が分析して、売れそうな商品を絞り込み、成功事例を地域の関連事業者へ告知し、成功事例の共有をしてもらいたいです。
この取り組みを実施している自治体が茨城県、宮城県、愛媛県、福岡県、北海道などです。
例えば、茨城県ではIBARAKI EXPORT(https://exports.pref.ibaraki.jp/home)というWebサイトを立ち上げて、海外販路開拓の成功事例を掲載しています。このようなWebサイトを県内の売り手が見て、県に相談すれば自分たちもチャンスがあるのかもしれないと思ってもらう機運を少しずつ醸成させていく活動が自治体には必要かと思います。
●海外販路開拓に今から取り組もうとする自治体はまず何から始めたらよいでしょうか。
STEP1~STEP8までをできるだけ長期の目線で取り組んでいただいて、短期(1年)・中期(3年)・長期(5年)で細かく計画を立ててください。
例えば、一緒に事業を進めた宮城県ではまず1年目に「市場を知る」ことを目標としました。次に、「買ってもらう」ことを目標としました。さらに今では、売り手に数年後の売上げを設定して、事業を進めています。このような流れは茨城県でも実施されています。
さらに、“新規で海外販路開拓に取り組まれる事業者さん”と“継続して事業に参加している事業者さん”で分けて、途中からでも参加できるように幅広く募っていただきたいです。また、この事業に参加したら成功したという事例も作りつつ、1年目、2年目で参加した事業者を育てていく、そしてある程度したら卒業していってもらうようなサイクルを作ることが望ましいです。海外販路開拓は地道に進めることが大切です。
●クレアからのお知らせ ~プロモーションアドバイザー事業のご紹介~
クレアでは、海外プロモーションに精通した専門家(プロモーションアドバイザー)を自治体に派遣し、海外プロモーションの企画段階において、相談対応や専門的な助言・情報提供等を行うことで自治体の支援を行う事業を実施しています。本取材を受けていただいた株式会社フォーバル様を含め、32 社(名)にアドバイザーとしてご登録いただいています(令和3年12月末時点)。
また、本事業では、アドバイザーが直接現地に赴くことを要件としていましたが、新型コロナウイルス感染拡大防止の観点から、オンライン派遣も可能となりました。
本事業にご興味がございましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
https://economy.clair.or.jp/activity/dispatch/
(経済交流課 笹川)