事例紹介

人口のおよそ6倍、55万人ものインバウンド客が訪れるようになった岐阜県高山市の事例

 岐阜県高山市は1986年に「国際観光都市宣言」を行い、地方都市としてはいち早くインバウンド対策に取り組んできました。その努力の甲斐あって、昨年には人口9万人に満たない高山市に年間55万人もの訪日客が宿泊しています。今回は、同市が30年以上もの年月をかけて行ってきたインバウンド施策とはどのようなものだったのか、その背景に迫ります。

   江戸時代の面影を今に伝える高山の町並み

 

インバウンド先進都市、高山市の道のり

 1986年に全国15区のひとつとして国際観光モデル地区に指定され、その直後に国際観光都市宣言を行った岐阜県高山市。以降、同市は30年以上もの年月をかけてインバウンド誘致に取り組んできました。1996年頃から本格的に海外でのプロモーションを展開し、2011年にはインバウンド対策や海外への物販、海外との交流を一元化するために海外戦略部署を立ち上げています。また、ウェブサイトやパンフレット、マップの多言語化など、外国人の受け入れ体制整備にもいち早く取り組んできたことでも知られています。このように、インバウンド誘致を行う地方都市としては先進的な取り組みを続けてきた高山市ですが、その一方で人口減少という問題を抱えています。近隣の市町村と合併した2005年に9万7,000人だった人口は、現在8万6,000人と、十数年で1万人以上減少しており、同時に総生産額も減少しています。課題解決の柱として、「本気でインバウンドに取り組む」と腹をくくった高山市長の決意に従い、市役所の職員が一致団結。本気で取り組む姿を見せることで、「高山が生き残る道は観光しかない」という危機感や共通認識が市民にも浸透しました。これが官民一体となってインバウンド誘致に取り組む原動力となっています。

 

英語、中国語(繁体字、簡体字)からスペイン語、ヘブライ語まで

マップは日本語以外10言語で用意されている

 

 

インバウンド対策で重要なのは、市民の幸せを一番に考えること

 高山市の海外戦略部長である田中明氏は「長期的な視点を持ってインバウンドに取り組むと決めたからには、行政の役割を果たすこと、つまり市民の幸せを一番に考えることが最も重要だと考えています」と話します。インバウンド対策は地域の課題を解決するひとつの手段であり、必ずどこのエリアでも取り組まねばならぬものでは、決してありません。また、インバウンドに行政だけが一生懸命取り組んだとしても、地域の思いとかけ離れていたらうまくいきません。高山市では市民の声に耳を傾けてきた中で、『インバウンドで稼いでいこう』という共通認識が市民にあったからこそ、これまでインバウンド施策を継続しているそうです。また、そのために地域が持つ強みを見極め、地域ならではの魅力を打ち出していくということも行政の役割だと考えていると、付け加えてくれました。

 

 

地域の普段の暮らしを見せることが、最強のコンテンツになる

 田中氏は、「地域の強みを打ち出す上で最も重要なのは、外国人向けの新しいコンテンツを作るのではなく、その地域に根付いた風習や習慣など、普段の暮らしを見せることです」と言います。具体的には食べ物やお酒、お祭りといったその地域ならではの特徴こそが最強のコンテンツになるということです。今あるコンテンツの魅力を引き立たせて外国人の心を掴むためには、私たち日本人が“見せたいもの”を盛り込むのではなく、外国人の視点で“見たいもの”を知ることが大切です。高山市では在日外国人の方を招待してモニターツアーやファムトリップを行い、外国人にとって何が魅力的なコンテンツで、何に興味を示さないかを何度も調査・分析してきました。その結果、高山に関心の強い国・地域に絞り込んで、重点的にプロモーションができるようになり、限られた予算を効率的に使うことができたそうです。

人口の約6倍のインバウンド客が高山を訪れる

 

 

積極的な民間企業を応援することで、成功事例を作る

 高山市では、民間企業と同様に実績を出すことに焦点を当てています。行政にとっての実績とは、高山市の経済に貢献すること。とはいえ、行政は商材を持っていないため、稼げる地域になるためには実際に商材を持っている民間企業をサポートし、環境を整えていくことが重要です。積極的に外国人観光客を受け入れたいと思っている民間企業を応援するために、海外の旅行会社や現地メディアに営業に行く際は、積極的な民間企業の担当者にも同行してもらい、その企業への集客・実績につなげています。行政だから、地域の事業者を公平に扱わねばならない…のではなく、1社が成功すれば、当初は外国人誘致に消極的だった企業も刺激を受けて積極的になり、インバウンドに取り組むようになってくる。高山市では、こうした成功の連鎖が生まれているそうです。

 

 

アクセス面は周辺地域との連携でカバー

 空路も新幹線の駅もないエリアに外国人を誘致するにあたり、留意しなければいけないのはどういった点なのでしょうか。高山市は、自分たちのエリアだけのプロモーションには限界があると考えています。高山市を訪れる外国人の中には、東京や大阪などの主要都市を目的に訪れてから高山に来る人もいれば、白川郷や金沢と合わせて来る人もいます。そのため、高山は近隣エリアとも連携し、海外の旅行博に出店する際は互いのパンフレットを持参してPRしたり、ホームページで他のエリアを紹介したりもしています。また京王バスと連携し、外国人向けのスペシャルチケットを作った実績もあります。東京・新宿を起点に高山や松本、白川郷、金沢、富山など、電車でアクセスするには少し不便なエリアを周遊するチケットをひとまとめにパッケージで販売することで、外国人がより足を運びやすくなったそうです。

日本三大曳山祭りの一つに名をつらねる高山祭もインバウンド客に人気がある

 

 

まとめ

 高山市の事例を見ると、地方都市でインバウンド客を受け入れていくためには、一朝一夕で結果が出るものではないということがわかります。また、「住んでよし、訪れてよし」の観光地となるためには、何よりもそこに住む地域の人々を幸せにするという行政の役割を主軸に置き、その上で外国人観光客たちがいかに快適に観光できるのかということを考えていかなくてはいけません。行政が両者に目を向けることで地域の人々の意識が自然と高まり、外国人との積極的な交流が生まれる高山市のような観光地が実現するのでしょう。

 

やまとごころ編集部

 

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