日本と韓国を結ぶLCCは便数、就航地とも拡大傾向にあり、韓国人観光客が気軽に日本旅行を楽しむことができるようになっています。一方で、韓国人観光客は、依然、東京から大阪へ移動するゴールデンルートや、地理的に近い九州地域等に人気が集中しています。その中で、韓国国内で知名度を上げている県として鳥取県があります。2016年10月に鳥取県とソウルを結ぶ格安航空(LCC)が就航して以来順調に増加し、平成29年度の韓国人宿泊数は前年度比+41%の約5万人、県内外国人宿泊者数に占める割合は4割に達しました(出展:観光庁宿泊統計)。そのように韓国人観光客の受け入れに成果を上げている鳥取県ならではの受入環境の整備手法について取材しました。
クルーズで境港国際旅客ターミナルに到着した韓国人観光客
■アウトドアが根付く韓国の観光客を受け入れる環境づくり
鳥取県の空港、フェリーターミナルや観光地では、登山服姿の韓国人をよく見かけるようです。韓国人にとって登山は単なる趣味の域を超え、ひとつの文化として定着しています。その背景には、健康への高い関心と、国土の約70%を山地が占めているという韓国の地形的特徴があります。
韓国から鳥取県へのインバウンドは、飛行機で来るツアーの場合は3~4日間の日程が多く、特に山陰地区の最高峰である大山への日帰り登山が組み込まれたツアーが人気です。また、境港国際旅客ターミナルにはウラジオストクを出発し、韓国の東海(トンヘ)港を経由するクルーズフェリーが週1便寄港しますが、アウトドアを目的に訪れる韓国人も多いそうです。
取材はすでに紅葉の始まった肌寒い10月に行いましたが、登山服姿で下船するたくさんの韓国人観光客を目にしました。取材当日は大山登山ツアーに参加するグループが2組あり、ツアー参加者に話を伺ったところ、「大山は日本でも有名な山だと聞いた。韓国の山と違うところを見出したい」とのことでした。
フェリーターミナルで目を引いたのは、登山届提出箱でした。ハングル表記の登山届や提出箱が準備されていることからも、多くの韓国人が大山を訪れていることが分かりました。境港市観光協会の方は「安全に登山を楽しんでもらうことは受け入れる側の責任ですので、提出しやすい場所に設置しています」と話していました。
ターミナルに設置されている「登山届提出箱」
韓国の一般的な登山道は、手すりのついた階段等が設置されており、初心者でも登りやすいように整備されています。また、日帰りで登山できる山がほとんどで、日本のように山小屋に泊まって朝から夕方まで稜線を歩くようなことはめったになく、雨具も簡単な物しか持っていません。日本での登山が初めての韓国人観光客にとっては、登山届を事前に提出することで、より必要な装備を備え、心の準備をしっかりし、安全で快適に日本の山を楽しむことができるのではないでしょうか。
また、クルーズフェリーには自転車を持ち込むことができることから、サイクリングを楽しむために訪れる韓国人観光客も多くいます。2018年4月には韓国の旅行会社が旅行商品として企画したサイクリングツアーに約100人が参加し、フェリーターミナルから車で20分ほどの距離にある弓ヶ浜から大山までのルートを走りました。また、韓国の個人旅行代理店はモンゴル人向けの鳥取県でのサイクリング旅行商品を企画しています。鳥取県では2年前からサイクリングに関するファムツアーに取り組んでおり、その成果がようやく出て来ています。
鳥取県では、サイクリング目的でフェリーに自転車を載せてきた方に向け、フェリーターミナルから大山の手前にある皆生温泉まで、山と海を眺めながら海岸沿いを走ることができる「弓ヶ浜サイクリングコース」を整備しており、2020年には全線供用開始を予定しています。これまでは交通量の多い国道を走っており大変危険でしたが、今後は安心してサイクリングを楽しむことができます。このサイクリングコースの特徴は、コース沿いにある12か所のコンビニと連携し、各店舗に自転車の修理キットが用意されているところです。
鳥取県の担当者に韓国人のサイクリングインバウンドにおいて注意すべきところを伺ったところ、「日本と韓国では交通ルールが異なります。韓国では車が右車線を走行するため、自転車で停車する時に韓国人は自国では車が通らない右側に自然と体を傾けてしまいます。車と接触しないように常に注意喚起をしていく必要があります」とのことでした。
■交通インフラも整備
では、なぜ訪日韓国人客が大都市圏から離れている鳥取県に多く訪れるのでしょうか。
その理由は、鳥取県の不断の努力にあります。県庁の観光戦略課には韓国に精通した2人の担当者がおり、また公共交通の部署にあった航空路線の利用促進事務を、同課に移管することによって、航空会社と柔軟な交渉ができるようになりました。その結果、米子空港に週5便飛んでいたLCCを週3便に減らしたいという航空会社の提案に対し、粘り強い交渉の末、週6便と以前よりも多くの便が就航するようになり、韓国からのアクセスがさらに改善されています。
そのような県の努力に呼応するように、九州に本社があるタクシー会社が韓国からの集客に力を入れ、韓国の旅行会社と組んで米子市観光プラン商品を販売するほか、県内のタクシー会社では韓国語で予約できる観光ツアーを販売しています。
増加する韓国からの観光客に対応するため、鳥取県と島根県等で構成する山陰インバウンド機構では“山陰地域限定特例通訳案内士”養成研修を行っています。この制度は以前、境港にクルーズ船で中国から4千人の旅行者が訪問した際、当時は通訳案内士の資格がないというだけで、中国語が話せる地元の方がガイドできなかったことから、その状況を改善するために国の特区制度を利用して作られたものです。現在19人の韓国語特例通訳士合格者が、お土産店での商品説明や観光タクシーに同乗するなどガイドとして活躍しています。
山陰インバウンド機構の森本氏によると、境港市内の商店街では以前、外国人旅行者があまりお土産を買わなかったことから、外国人が来る時に試食を減らすという対応をしていたそうです。しかし、境港市が観光コンテンツとして力を入れているゲゲゲの鬼太郎に出てくる目玉親父のお菓子を自分の目に当ててインスタグラムに投稿するという付加価値を継続的に発信してもらうことで、今ではたくさんの外国人観光客がお土産を購入してくれるようになったとのことです。外国人観光客向けの売れ筋が分かってきたことや、販売員が対応に慣れてきたことも消費額増加の要因だと考えられます。また、2017年度からは境港市街地と約2km離れた国際旅客ターミナルより出発する無料バスを運行させ、買い物をしてもらえるよう市街地に誘導しています。
上記のような県の取組を受け、鳥取市では、関西を訪れている外国人観光客を市へ誘致するため、交通事業者と連携し、大阪から鳥取駅バスターミナルまでの高速バスを外国人観光客に限定して1,000円で提供しています。また、タクシー組合と連携し、3時間1人あたり2,000円の周遊タクシーを運行しています。運転手は観光協会と商工会議所、市が連携して2005年から開校している観光大学カリキュラムを修了した観光マイスターが担当しており、タクシーで自由に市内を観光しながら、説明を聞くことができます。
上記のような環境整備に対する努力が、韓国人観光客にとって鳥取県を魅力的にしているようです。
(後篇に続く)
(経済交流課 キム)