事例紹介

大阪市には特区民泊を活用した新しい宿泊形態が誕生!

民泊のニーズが高まっている。2017年には民泊新法が国会を通過し、いよいよ2018年6月には施行となり、新しい時代を迎える。一方、大阪市ではそれに先駆け、国家戦略特区として民泊を活用している。そんな中、此花区西九条に空き家を活用したSEKAI HOTEL(セカイホテル)が誕生した。

SEKAI HOTELのフロントはインバウンドを意識して和太鼓を置いた

SEKAI HOTELのフロントはインバウンドを意識して和太鼓を置いた


ポイント:
・大阪市が特区民泊を推進したから実現した1棟貸しのスタイル
・ホテルではできなかったファミリー層の取り込みに成功

 

 

■急増する外国人観光客の受け入れを民泊で対応?

大阪への訪日外客数が伸びている。
大阪の外国人旅行者数は大阪観光協会の統計によると、2012年は約203万人、2016年は940万人で、2017年は1,111万人となった。
観光庁がまとめた2015年の宿泊施設客室稼働率は、大阪府85.2%で、全国平均の60.5%を大幅に上回っている。さらに、外国人旅行者がよく訪れるとされる東京都、京都府もそれぞれ82.3%、71.4%であり、この2都市の稼働率さえも上回っていることが分かる。

 

このように大阪府、中でも大阪市では慢性的に宿不足の状態になっており、最近では奈良県や和歌山県まで足を伸ばして宿を求める観光客が増えてきた。そこで何とか大阪市内に引き留めるため、大阪市が注目したのが、民泊だった。

 

内閣府では2013年に国家戦略特別区域法に基づく旅館業法の特例、いわゆる「特区民泊(※1)」が制定され、大阪市でも2016年に特区民泊に関する条例が制定された。続いて区域計画の認定を受け、同年12月には民泊への取組が開始されることとなった。これにより、一定の条件を満たして大阪市の特区民泊の認定を受けた施設では、2泊以上する旅行者を自由に受け入れることができるようになった。法整備により民泊を安心して推進できる体制を作り、地域住民とも上手く共存できることを目指している。民泊に消極的な自治体が多い中で、大阪市は議会が積極的に動いているのである。
なお、この大阪市の条例は、2016年の内閣府の「特区民泊」の施行令改正に合わせて最低宿泊制限の日数を6泊7日から2泊3日に緩和している。
6泊7日以上の宿泊という制限は実態に合っておらず、このことは民泊利用者が1カ所に滞在する平均日数は3.5日という、大手民泊サイトのAirbnb(エアビーアンドビー)の調査結果からも読み取ることができる。

 

(※1)特区民泊:根拠法令は国家戦略特別区域法第13条。国家戦略特区において、対象施設が要件に該当する場合は、都道府県知事(保健所を設置する市又は特別区にあっては、市長または区長)が認定することにより、旅館業法の適用が除外される。

 

また、特区民泊とは別の新しい法制度で、住宅宿泊事業法(民泊新法)が2018年6月に施行された。この民泊新法では最低宿泊日数の定めはないが、年間営業日数の上限が180日に制限されている。一方、特区民泊では営業日数制限がないため、通年営業を行いたい事業者にとっては特区民泊の方が都合が良い。

 


■空き家を活用してホテルにする?

そのような背景の中、2017年6月にUSJ(ユニバーサル・スタジオ・ジャパン)の近くにユニークな民泊施設「SEKAI HOTEL(セカイホテル)」が誕生した。施設は、西九条駅から徒歩3分の場所にある空き家をリノベーションしてフロント利用し、フロントで鍵の受け渡しをして、スタッフが別の空き家をリノベーションした各客室に案内する仕組みだ。現在、3軒4室が登録されている。
外国人観光客を想定してフロントは和のテイストで作られ、和太鼓をインテリアにしている。各客室は、和のテイスト、欧州の田舎風などそれぞれの個性がある。
大阪市が特区に認定されたことで、法律にのっとって事業運営できることが民泊ホテルを進めるうえで心強いと施設の運営をするSEKAI HOTEL株式会社の担当者は言う。

 

再開発が遅れている大阪市此花区西九条エリア

再開発が遅れている大阪市此花区西九条エリア

SEKAI HOTELのある大阪市此花区西九条というエリアは、USJに近いという好立地であり、情緒ある街並みにも関わらず、大阪環状線沿線では不動産価値の低い場所であった。道が狭く再建築不可物件が多いこと、そのため大手デベロッパーが手を出しにくい一角で、大阪の発展に取り残されたことが理由のようだ。しかし、同社の担当者によれば、工夫をすれば、地域の価値を高めることができるという確信があったという。

 


SEKAI HOTELのプロジェクトがスタートしたのは2016年6月で、民泊業・旅行業を営む同社のほか、その系列会社のクジラ株式会社を中心に事業構想を練った。クジラ社は、空き家を中心に中古住宅を改修実績があるリノベーション会社で、不動産業もしている。この地区の物件を売りたいという不動産情報が入ったことがきっかけとなり、チームを作ることとなった。
その後、グラフィックデザインのサイバーポート社、語学教室のChinese Language School、法務・労務のフォーカスクライド法律事務所、障がい者就労支援のNPO法人ARCOなど大阪市内の企業が複数加わり、連携して運営している。

 


■地域の活性化につながる民泊プロジェクト!

客室ごとにデザインを変えていて、こちらは吹き抜けで大人数にも対応

客室ごとにデザインを変えていて、こちらは吹き抜けで大人数にも対応


オープンの1カ月前の2017年5月に、近隣住民説明会をSEKAI HOTEL株式会社が開催した。当時は反対される声もあったそうだ。近隣住民が安心してもらえるよう、フロントは24時間対応とすること等、丁寧に説明を繰り返した。民泊の場合、家主不在型といって誰も住んでいない家に、見知らぬ外国人が出入りするケースが多く、近隣住民から不安がられていたからだ。

 

オープンと同時に、大手OTA(オンライン・トラベル・エージェント)のBooking.comに掲載した結果、ほとんどの予約は同サイトからで、稼働率はオープン以降、8割以上をキープしている。宿泊することでUSJと大阪市内観光の両方を体験したいという旅行者が多い。

 

客室はそれぞれの棟が6~8人に対応できるようになっていて、ファミリー層の需要が多いという。普通のホテルでは、大家族や親戚で泊まれる物件が少ない。
このようなフロントのスタイルの宿が初めてということで、最初は戸惑うゲストもいたが、結果的にはチェックインもスムーズにできて良かったと好評だった。外国人が多いと想定していたが、夏の観光シーズンは日本人が多い結果となった。ファミリー層の掘り起こしとなったのだろう。

客室のリビングにはキッチンもあり、自炊も可能になっている

客室のリビングにはキッチンもあり、自炊も可能になっている


外国人客の内訳は、中国、韓国が多く、次に東南アジアからとなっていて、やはりファミリー層が多い。特に大家族で旅行を楽しむ東南アジアの方々には好評だったそうだ。

 

最近では宿泊用の客室の近隣住人がときどきフロントに顔を出して話すようになった。運営者と近隣住人との間でお互いに信頼感が増したことが嬉しいと担当者は言う。
春には10室の民泊客室の開業を目指し、準備を進めている。民泊の可能性がどこまで広がるか楽しみだ。

 


取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | 中部・近畿 | トピックス

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