松山にやって来る外国人旅行者がここ数年、増加している。四国や瀬戸内を周遊する外国人旅行者が立ち寄るからだ。松山は道後温泉という古くからの温泉街が強みで、アートと温泉を融合した企画が、海外での松山の認知度向上に貢献した。松山の取組を紹介する。
ポイント:
・キラーコンテンツ「道後温泉本館」とアートとの融合による話題性の向上
・道後温泉本館でのガイドペーパー作成など受入環境の整備
■ここ数年、松山のインバウンドが盛り上がっている
松山の外国人観光客数は、2012年までの10年間は、年間平均で約35,000人前後を推移していた。ところが、2013年に63,600人、2014年に88,700人、そして2015年には133,800人と、ここ数年で飛躍的に伸びている。2016年についても、肌感覚としては前年を上回っていると松山市の観光・国際交流課では考えている。
増加の背景には、松山空港への関空や成田からのLCCの就航、高松空港便の台湾路線の増加、広島に香港のLCCが就航したことによる「しまなみ海道」経由での流入等、エアラインの就航が大きく影響している。
つまり、他の空港利用の外国人観光客が、周遊目的で松山にも立ち寄ることで、人数を押し上げているのだと担当者はいう。
高松(香川県)からの鉄道や高速道路、また尾道(広島県)からのしまなみ海道等のルート上の他のエリアには温泉街が無く、松山の道後温泉がそのポジションを担っている。
訪日外国人が道後温泉を訪れる目的は、温泉のある宿に泊まるため、そして昔ながらの日本が体験できる道後温泉本館の雰囲気を味わうためだ。特に道後温泉本館が、外国人の旅情をそそるのだという。というのも、道後温泉は日本最古の温泉といわれ、そのシンボルである道後温泉本館は歴史的な建築物でもあるのだ。
そのような状況を活かすため、松山市が開設した観光WEBサイト(日本語・英語・韓国語・中国簡体字・中国繁体字)では、道後温泉本館の外観や休憩室の写真が目に入りやすいように構成している。つまり、道後温泉を地域の観光コンテンツの中心に据えているのだ。
また、ミシュラングリーンガイドにおいても道後温泉本館が3つ星に選ばれていて、松山のまち全体としても2つ星評価を獲得している。
■温泉とアートの融合が海外メディアでも話題になり認知度向上につながった
道後温泉を担当する市職員によると、外国人観光客の増加には2014年に開催した温泉とアートを融合させたプロジェクトのインパクトが大きく影響したとのことだ。
そのプロジェクトとは、道後温泉本館改築120周年の大還暦を記念して実施した「道後オンセナート2014」だ(※1)。
道後温泉はもちろんのこと、道後温泉エリアのホテルの部屋がアートになっていて、例えば草間彌生(※2)の作品が並ぶホテルの部屋も出現した(草間作品は公開終了)。昼間は一般に公開しているが、その部屋に泊まることも可能だ。街中では影絵アートもあり、地区をあげての取り組みとなっていた。
※1:道後オンセナート公式サイトを参照
http://www.dogoonsenart.com/
また当時の詳細はこちら:
https://www.city.matsuyama.ehime.jp/kanko/kankoguide/kankomeisho/dogoonsen/dogoonsenart2014/dogoonsenart2014.html
※2:前衛芸術家で、1929年長野県松本市生まれ。幼少より水玉と網目を用いた幻想的な絵画を制作。
まず国内メディア向けにプレスリリースをした後、記事の掲載に伴って海外メディアからの取材が増えた。パワーブロガーの取材にも対応したそうだ。
また、1年間という長期で開催していたので、海外の旅行会社もツアー企画を練りやすく、アートにちなんだ旅行商品がいくつも造成されたそうだ。アートと温泉という組み合わせにインパクトがあったのだろうと、市の観光担当者は当時を振り返る。松山の温泉街としての知名度を海外に広げるきっかけになった。
こうした成果を受け、地元の観光事業者から「アート」にちなんだ取組を継続するよう要望が出された。このような取組は翌年以降も「道後」=「アート」の展開を定着させるべく毎年開催されている。ちなみに2015年は蜷川実花(※3)、2016年は山口晃(※4)とのコラボレーションで海外でも話題になった。
※3:1972年生まれの女性写真家。前衛的な作品が多い。父親は故・蜷川幸雄。
※4:1969年生まれの現代美術家。大和絵や浮世絵のようなタッチで、ユーモラスだ。
■外国人向けのガイドペーパーを作成し、受入整備を進める
道後温泉本館には浴室と休憩室の組み合わせで入浴コースが4つ、さらに、皇室専用浴室として作られた「又新殿」の観覧コースを加えると5コースある。
コースにより使える浴室や休憩室が異なり、日本人でも複雑に感じるため、職員が丁寧に説明し対応している。近年、外国人観光客が増える中で、英語ができる職員は限られているため、ジェスチャーを使ったり、浴室まで案内したりして対応している。
そこで道後温泉本館は、2015年度に「地域住民生活等緊急支援のための交付金(先行型)」を活用して、道後温泉本館のガイドペーパーを4言語(英語・韓国語・中国簡体字・中国繁体字)で作成した。
これは、外国人観光客にストレスなく利用してもらうために、コースごとに使えるサービスや順路をまとめたもので、これを入口改札で渡すことにしたのだ。これまで時間がかかっていた説明が短縮でき、コミュニケーションがスムーズになったのだという。
道後温泉本館の公式サイト
道後温泉本館
■さらなるチャレンジを続ける松山・道後温泉
昨今、観光客の旅行目的が体験型に切り替わってきていることもあり、松山でも、人力車や城下や温泉街を着物で散策できるサービス等ご当地体験できる要素も増えている。最近では人力車に乗って道後温泉本館前で撮影する外国人も少なくない。このような外国人旅行客によってSNSで情報が拡散されていくことを期待している。
2017年9月には新たな入浴施設「道後温泉別館 飛鳥乃温泉(あすかのゆ)」が完成予定で、日本最古の温泉としての認知度が一層高まることが期待されている。道後温泉には聖徳太子の来浴や女性の帝、斉明天皇の行幸などの物語や伝説があり、その飛鳥時代の建築様式を取り入れた特徴的な外観の湯屋となる予定だ。
また、地理的に近い広島市には2015年に年間100万人の外国人観光客が訪れており、松山市は広島からの観光客に松山にも足を延ばしてもらえるような誘客戦略を展開している。その一環として、瀬戸内航路をPRした動画作成や瀬戸内海航路・JR線の割引サービス(せとうちエリアパス)等を行う「西遊紀行」プロジェクトへ、松山市もスタート時から参画している。
松山の道後温泉を軸としたインバウンドの今後の盛り上がりに目が離せない。
取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/