事例紹介

ベジタリアン・ヴィーガン市場の成⾧と自治体の役割

NPO法人ベジプロジェクトジャパン

代表理事 川野 陽子

注目が高まるベジタリアン・ヴィーガンとは

 近年、サステナビリティや動物福祉、健康への意識の高まりを背景に世界中でベジタリアンやヴィーガンへの注目が高まっています。動物性の食事よりも植物性の食事が環境負荷も小さく、動物達への負担もなく、よりヘルシーな食べ方ができるからです。ベジタリアンは肉、魚介類、ヴィーガンはそれらに加えて卵や乳製品、蜂蜜等も含めて動物に由来するものを食べない・身に付けない人、そのライフスタイル、食品等がそれに対応していることを指します。

ベジタリアン・ヴィーガンに関連する動向

 国内でもベジタリアンやヴィーガンへの関心の高まりや、対応する動きが起こっています。具体的には、個人、飲食店、食品メーカー等の企業、そして自治体において次のような変化が挙げられます。

 個人に関しては、自身がベジタリアンやヴィーガンになる、あるいは週に何度かはヴィーガン食を摂るというように動物性食の消費を減らす人がでてきています。飲食店に関しては、専門店だけではなくヴィーガン料理を一部提供する店も増えています。大手外食チェーンも動物性食材不使用のメニューを提供し始めています。食品メーカーにおいては、ヴィーガンの商品開発を進め新商品が生まれています。私の運営しているNPO法人ベジプロジェクトジャパンではヴィーガン認証を行っていますが、企業からの問合せやヴィーガン認証を取得した商品は日々増えています。認証商品は一般的なスーパーに並び始め、飲食店に業務用商品として卸され、輸出されることもあります。駅弁や地域の土産品としてもヴィーガンマークの付いた商品が売られ、それが話題になることもあります。

 

写真:桃中軒㈱が製造販売する「静岡ヴィーガン弁当」

世界で増えるベジタリアン・ヴィーガン

 ベジタリアンやヴィーガンは日本人ではまだ少ないですが、世界では珍しくありません。インドや台湾等では、宗教上の理由で生まれた時からのベジタリアンもいます。一方で、冒頭に挙げた理由によりある時から食の選択を変える人達も増えています。

 私がベジタリアンという言葉や存在を知ったのは大学1年生の頃でした。オランダ人留学生が欧州では環境問題を考えてベジタリアンが増えていると教えてくれました。約20年前のその頃に比べると情報が拡散されやすくなり個人が食に向き合う機会も増え、また気候変動はじめ環境問題も深刻になるにつれ、ベジタリアンやヴィーガンというライフスタイルに関心をもつ人が益々増えています。

インバウンドでも必要とされるベジタリアン・ヴィーガン対応

 訪日外国人が増え、世界中のベジタリアンやヴィーガンも日本を訪れていますが、日本はベジタリアン・ヴィーガン対応が進んでいるとは言えません。食は外国を訪れる際の楽しみの1つのはずですが、食べられるものがなかったり、ベジタリアンと伝えても理解されなかったり、満足して帰国してもらえないことが起こっています。

 日本でもベジタリアン・ヴィーガン対応を進めることで、彼らにお金を使ってもらい、楽しい思い出を持って帰ってもらい、日本での素晴らしい経験をシェアしてもらえるようになれば、日本の価値や評価も高まるでしょう。ベジタリアンやヴィーガンは家族や友達の中で数人いることが多いです。飲食店にヴィーガン対応のメニューが1つでもあることで、その店はベジタリアンを1人でも含むグループ客の店選びの候補になり得ます。

 

写真:ヴィーガンラーメンの提供も行う「浅草名代らーめん与ろゐ屋」

自治体の動き

 インバウンド対応という観点から、ベジタリアン・ヴィーガン対応を自治体が後押しする動きも出てきました。今回は私が関わらせていただいている事例を幾つか紹介します。

 東京都は、多様な習慣をもつ外国人観光客への理解を深め対応を促進するためにセミナー、アドバイサー派遣、マッチング会、先行店舗での研修会等を行っています。また東京観光財団はベジタリアン・ヴィーガン対応の店舗を紹介する冊子を作成しています。福岡市は、ヴィーガン対応のあるお店のPRや飲食店へヴィーガン対応を促すための食材の提案やアドバイスの実施をしています。東京都台東区は、対応店を紹介するマップ制作、ヴィーガン認証取得に対する助成金の交付、食の多様性セミナーの開催等を積極的に行っています。さらに台東区役所の食堂ではヴィーガン料理が提供されていて、旅行者を含め区役所に訪れる人が気軽にヴィーガン料理を楽しめます。京都府亀岡市に関しては、環境先進都市としてヴィーガン対応にも踏み込み、先日セミナーと試食会が開催されました。

 その他、セミナーに呼んでくださったりご相談に来られたりする自治体が増えています。これは皆様自身がきっとベジタリアン・ヴィーガン対応の必要性やその対応をした時の効果への期待を感じ始めているからではないでしょうか。日本でこの動きが始まったのはここ最近のことです。まだまだやるべきこともやれることも、たくさんあります。自治体が動くことでその地域の飲食店や小売店、宿泊施設の方のベジタリアン・ヴィーガン対応のサポートになり、その理解を深める人が増えるはずです。

 

写真:東京都主催の「ムスリム・ベジタリアン等多様な文化・習慣を持つ外国人旅行者受入セミナー」

できるところから取り組み、地域の魅力発信にも繋げる

 ベジタリアン・ヴィーガンの対応と聞くと、難しそうな印象を持つ方もいます。しかし、原材料には気を付ける必要がありますが、その他に関してはそれぞれの店でできる事とできない事を整理して進めれば良いです。また「ヴィーガン食材」を特別に仕入れる必要が必ずしもあるわけではありません。こういったことを紹介し具体例を紹介すると、「うちの店でもできそう」「ハードルが下がった」「取り組んでみる」と前向きな姿勢を見せてくださる事業者の方にもたくさんお会いしてきました。

 また、ヴィーガン料理として店側が認識していなくても、動物性の食材が使われていないメニューがある場合もあります。さらに元々動物に由来しない地域の食材を発見できることがあります。豆腐、がんもどき、湯葉、麩、蒟蒻等、日本人には馴染み深いこういった食材もほとんどの場合にヴィーガン料理に使うことができますし、日頃から使っている食材を活かしてヴィーガン料理を作ることもできます。

 自信を持てるヴィーガン料理や商品ができれば、宣伝することも大切です。ベジタリアンやヴィーガンの人に情報を届けることはもちろんですし、素晴らしいヴィーガン食は普段は肉魚を食べる人にも美味しく食べてもらえるものです。

万博で紹介されるヴィーガン食、未来の食としても注目

 未来を語る万博において、チーズ専門の企業がヴィーガン専門店を出店する他、食の分野でヴィーガンを取り扱う企業が何社もあります。よりサスティナブルでヘルシーな食として注目が高まるヴィーガン食は、「外国人対応」ということだけではなく、日本人にとっても選択肢の1つになり、今後より一般的なものとして発展していくと思います。

 関わる皆様も、ビジネスチャンスというだけではなく、取り組むこと自体が地球、人、そして動物にも優しいこと、未来に繋がることだと捉えながら進めることは、ベジタリアン・ヴィーガン対応に前向きに取り組める方法でもあると思います。

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