事例紹介

福島県が挑戦する「デジタルマーケティング」によるインバウンド誘客

 震災・原発事故から約7年が経過しました。震災前、福島県は観光客で賑わい、お客様は皆、四季折々の福島の魅力を味わっていました。しかしながら、震災により国内外のお客様が激減。福島県民のプライドは傷つきました。そこで、観光客を呼び戻すため、福島県が挑戦したのは日本最先端の「デジタルマーケティング」でした。

 

(DIAMOND ROUTE JAPAN2018 ウェブサイト)

 

■なぜデジタルプロモーションに取り組んだのか

 

 福島県は2011年に発生した東日本大震災と原発事故の影響で、外国人観光客数が大きく減少しました。外国人観光客を呼び込もうと現地でイベントを実施しようとしたところ、原発問題に敏感な市民の声によりイベントが中止になるなど、「風評」が外国人観光客を回復させる上での大きな壁となりました。

 しかしながら、世界の皆さん全てが「Fukushima」に対してネガティブなイメージを持っているわけではありません。「Fukushima」の観光に興味を持ってくれる人を探し出し、適切な情報発信をすれば来てくれる可能性は大いにあると信じ、現地で営業するより効果的かつ効率的にターゲティングが出来ると言われる「デジタルマーケティング」に挑戦しました。

 

■その取組内容

(エビスサーキットでのドリフト)

 

 外国人観光客はインターネット上での情報収集が主流になっていますが、「Fukushima」でGoogle画像検索すると原発関連画像ばかり表示されるなど海外では「Fukushima」=「観光地」というイメージを持っている人は少ないのが現状です。

 しかしながら、福島県の二本松市にある、ドリフトの聖地「エビスサーキット」には、震災以降も世界からドリフト好きが「Ebis Cercuit」と検索して行き方を調べ、訪れていました。強力なコンテンツこそが誘客の鍵であると考えました。

 

 

 そこで打ち出したのが「ダイヤモンドルート」構想です。多くの外国人が訪れる東京から福島に足を延ばしてもらうため、東京に近く外国人に人気が高い「日光」を持つ栃木県、「ひたち海浜公園」を持つ茨城県と連携し、「ダイヤモンドルート」と名付けた観光モデルコースを創りました。

 

            (栃木県の日光東照宮)                           (茨城県の国営ひたち海浜公園)

 

 まずは福島県への風評がそれほど厳しくなく、訪日観光客数も増えている台湾やタイ、ベトナム、オーストラリアをターゲット国にしました。Googleの媒体などを活用し、ターゲット国のうち、日本旅行に興味のあるユーザーの関心を明確化。そして、3県のコンテンツと照らし合わせ、何を発信すべきか整理を行い、ヒストリー、ヘルス、ネイチャー、アウトドアという4つのテーマで3県の魅力をアピールする動画を制作しました。

  動画制作の過程において特に大切にしたのが、「外国人目線」です。外国人クリエイター協力のもと、観光素材の選択から撮影方法まで、彼らの感性のままに自由に意見してもらい、制作を進めました。

 制作した動画をYouTube インストリーム広告により、ターゲット国の訪日関心層に配信したところ、再生回数はたちまち約1,100万回に達し、質の高い動画に「行ってみたい」「見てみたい」など来訪につながる好意的なコメントが多く寄せられました。

 

 

 思いがけない結果として、配信した動画の「ヒストリー編」がスペインやアメリカのSNSで拡散されていました。中には「Fukushimaに行ってみたい」とのコメントもあり、非常に驚きました。

(DIAMOND ROUTE JAPNA 2017 PR動画 ヒストリー編)

 

 アジアだけでなく、欧米にも潜在顧客がいることが分かったことから、翌年度には、同様に欧米諸国の関心と3県のコンテンツを掛け合わせて動画を制作・配信。今度はさらに少ない予算だったにもかかわらず、2,300万回の再生を記録しました。

 

その効果、既存プロモーションとの違い

 

 福島県の外国人観光客数は高い伸び率を記録しております。なかでも、再生回数の多かったタイ、オーストラリアからの宿泊客数が昨年に比べて大幅に伸びました。スペインからの宿泊者数も伸びており、動画広告の効果を実感しています。

 さらに2017年には外国人観光客数が初めて震災前の水準を超えました。

 デジタルプロモーションを行うことで、効果的な配信や拡散を狙えるだけでなく、ターゲット国のどの層にどの動画が響いたのかも分析することができます。従来の、現地でチラシを配ったり、聞き取り調査を行う方法よりも効率が良く、多くのサンプルデータを獲得できることから、非常に有効な手段であると感じました。

 また、欧米市場がターゲットになることも分かり、風評が厳しい福島県にも新たな光が見えました。

なお、実は2年目も「ヒストリー&サムライ編」がSNSで大きく拡散されており、連続でヒストリー編が爆発的な拡散をしたことから、福島県ではサムライコンテンツを核に、欧米を中心とした外国人観光客の誘客を狙う、「Samurai Spirit Tourism」事業を立ち上げました。ダイヤモンドルートの実施結果を受け、次なる事業展開を行っております。 

 

(SAMURAI SPIRIT TOURISM ウェブサイト・PR動画)

                   

■今後の課題

 

 現状では、せっかく多くの方に動画がリーチしているにもかかわらず、実際に来てくれたかなどを測る術がほとんどありません。そこで、自分たちの発信の結果、実際に来てくれたかどうかを知る方法についても把握できるようにしたいと考えております。

 また、動画を見た人が宿泊予約もできるような、「デジタルマーケティングの最先端」に挑戦したいと思います。

 

(執筆者:福島県 観光交流局 観光交流課長 今野 一宏)

 

DIAMOND ROUTE JAPAN

http://diamondroutejapan.com/2018/history.html

 

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