事例紹介

New浜名湖アグリフォーラムがきっかけで、農家がインバウンドに出会う

インバウンドへ全国的に関心が高まっているなか、まずはいったい何から始めるべきか、悩むことも多い。静岡県浜松市の農業従事者たちが関わるフォーラムの2016年度のテーマはインバウンドだった。インバウンドにはまったく知見のない中、手探りで進めたのが地元の留学生たちとの交流だ。今回は、今後の農業の観光分野への拡大の可能性を含んだ取組について紹介する。

お茶会の体験で作法を聞きながら抹茶をいただく

お茶会の体験で作法を聞きながら抹茶をいただく

■ポイント

・留学生との交流で農業とインバウンドの可能性を探る
・地元の農業をグローバルな視点で考え、行動する機会を作る


■若手農業従事者が新しい視点を取り入れる環境づくり

New浜名湖アグリフォーラムは、1996年から始まった取り組みで、商業者や農業従事者が、年齢・性別などに関わらず一堂に会し、より良い農業の未来を創造するために、互いに学び育てあい、新たな可能性を発見していく事を目的としてきた。
2012年度からは「農をブランド化して強い農業をつくる」、「新しい農業に挑戦」をテーマとし、特に農業者が主体となって取組を実施している。

主催者であるNew浜名湖アグリフォーラム実行委員会のメンバーは主に20代から40代の若手の農業従事者であり、事務局を担う静岡県農林水産課の担当者は「実行委員会が若手農業従事者の成長の場になっている」と、この取り組みに前向きだ。実行委員会はフォーラム具現化のための議論や意見交換の場となっているほか、各委員にとっても農業経営について真剣に考え、視野を広げる機会にもなっている。
このフォーラムは、基調講演に加え、実行委員会が事前にテーマに応じて実施した取組を発表する取組報告の2本立てで開催されるもので、毎年テーマを変えて11月〜3月に開催している。

2015年度には「輸出」をテーマに実施した。実行委員会のメンバーが事前に台湾での販路拡大に成功した地元名産品の“うなぎいも”の視察に行き、フォーラムで視察内容を発表している。そして、2016年度のフォーラムテーマは「インバウンド」に決まった。このテーマも、国際的な視野を持つというその流れから提案され、採択されたものだった。

茶畑で、どのように育てているのか留学生に案内した

茶畑で、どのように育てているのか留学生に案内した

テーマ決定後は静岡県に訪れる外国人は年々増加しているなか、浜松の農家は外国人観光客とどのようにして付き合っていくのが良いかなど色々な意見交換が交わされたが、「まず、身近な外国人に農園に来てもらおう」ということになった。そこで、地元の浜松日本語学院の生徒さんたちに8か所の農園に来てもらい、例えばお茶に関する体験等を実施し、その取組をフォーラムで発表することとした。

農園視察の初日には、自社の茶畑があり加工販売などを手掛ける村松商店が、同学院のインドネシアやベトナム、フィリピン、ブラジル、中国などの留学生約20人を受け入れた。畑を見学した後、店内の茶室で茶歌舞伎という鎌倉時代から続く遊びを体験させた。「茶歌舞伎とは、いろいろな品種を飲み比べ、何の品種かを当てる遊びだ。」と、同商店専務で実行委員の村松正浩さんが浜松産の深蒸し茶やほうじ茶などの特徴を説明し、留学生らと一緒に飲み比べを行った。
お茶の味の奥深さを知ってもらおうと始めた試みだったが、留学生によっては、味よりも作法や急須などの茶器に興味を持った参加者もいた。このように意図しない反応が返ってくるのも面白いと村松さんは言う。

茶歌舞伎のために、いくもの種類のお茶が並べられた

茶歌舞伎のために、いくもの種類のお茶が並べられた

そして2017年2月にNew浜名湖アグリフォーラム事務局主催により、フォーラムが開催された。実行委員会からの取組報告では、農園視察時の茶園との交流やその他の体験について、語学学校、茶園、フルーツ農園ほか6つの農園から発表があり、また、同じ会場で後半は東京からインバウンドの専門家である中村好明日本インバウンド連合会 理事長を呼んでインバウンドマーケティングに関する講演も行われた。

取組報告の中では、まず視察に参加した留学生から「茶歌舞伎を体験でき、お茶にはいろいろな種類があることが分かった」、「いちごがびっくりするほどおいしかった」、「自分の国の柿と比べて値段が高いがすごく甘い」、「見たこともない色のバラがあった」、「トマトに顔が書いてあるのを初めて見た」等の意見や感想があった。

続いて農家から「留学生を通して“農業”と“世界”を身近に感じた」、「海外のイメージが大きく変わった」「海外を非常に身近に感じるようになった」、「留学生の日本語能力が高いのに驚いた」、「生産者として柿の収穫をとても楽しそうにしてくれたことをうれしく思った」等の声があがったとの発表があった。

留学生は香りの違いなどそれぞれ観察し、飲み比べに備える

留学生は香りの違いなどそれぞれ観察し、飲み比べに備える

■インバウンドの可能性を農家が肌で感じたことが、新たな一歩に

浜松の農業はまだインバウンドの最初の一歩を進めたばかりだ。農業従事者にとって留学生との交流を通して新しい可能性を肌で感じられたのは大きかったようだ。今後、これを機に個々の農業従事者が、それぞれ新しい試みを進めていくだろう。

村松さんによると、もともと、地元のヤマハやスズキなどの企業研修のために海外から来る外国人の方もいて、日本らしいお土産としてお茶を購入することも多いが、今回のフォーラムを通してさらなるインバウンド及び販路拡大の可能性があると、手ごたえを感じたそうだ。
浜松の農家によるインバウンドが、数年後に実ることを期待したい。

取材:やまとごころjp
(インバウンド業界のポータルサイト)
http://www.yamatogokoro.jp/

Categories:インバウンド | トピックス | 中部・近畿

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