平成30年度第1回海外経済セミナ「日本酒」を開催しました!

会場の様子。多数の方にご参加いただきました。

自治体も関心の高い「日本酒」

 2018年7月23日に、インバウンド対策や海外への販路拡大として、自治体の関心も非常に高い「日本酒」をテーマに海外経済セミナーを行いました。実際に日本酒の製造を手掛ける方から海外で販売を手掛ける方まで、さまざまな分野で活躍されている4人の方を講師にお呼びしました。自治体関係者を中心に多くの方にご参加いただきました。

 

セミナープログラム

テーマ:「日本酒」


基調講演「國酒の海外に向けた認知度上取り組み」
講師:日本酒造組合中央会 理事 濱田 由紀雄 様

 

講演1「 南部美人の挑戦~小さな町の酒蔵が世界1位になる軌跡~」
講師:株式会社南部美人 代表取締役 久慈 浩介 様

 

講演2「 三越伊勢丹の海外店舗における日本酒のニーズについて」
講師: 株式会社三越伊勢丹 海外事業本部 海外営業統括部 中村 栄二 様

 

講演3「 『日本の酒』をどう地域ツーリズムの資源にするか?~ツーリズム・マケティングの視点から」 
講師: 全国地ビール醸造者協議会(JBA)理事・事務局長
   「ながの酒ツーリズム・プロジェクト」 コーディネーター

   農都交流プロジェクト2018プロデューサーほか 石川 智康 様

 

國酒の認知度向上に向けた取り組み

日本酒造組合中央会理事の濱田由紀雄氏

 基調講演では、各地域の酒造組合を束ねている日本酒造組合中央会理事の濱田由紀雄氏から講演をいただきました。國酒である日本酒の市場概観、酒造組合の取り組みや中央会としての事業をご紹介いただきました。

 現在、日本酒の製造酒量は減少しており、国内需要は伸び悩んでいます。また、酒蔵数も減少しており、特に、地域の酒蔵のような中小メーカーが非常に厳しい状態にあります。しかし、地域の酒蔵は、例えば自分の地域の米を使うことにこだわった酒造りのように付加価値を加えることで話題性を作り、酒造りに励んでいるとのことです。

 国内需要が厳しい状況にある一方で、海外への輸出量は、この10年で倍増しているように、増加傾向にあります。このような現状の中で、日本酒造組合中央会では海外での日本酒の認知度向上のため、「日本酒の輸出基本戦略(日本酒輸出協議会策定)」に基づいて海外でPRを行っており、世界規模のワイン展示会へ出展し、和食レストランだけではなく、海外の現地レストランにもワインのネットワークを活用して日本酒を売り込んでいる事例などご紹介いただきました。また、国ごとに日本酒を飲む客層が異なり、浸透度も異なるので、国、地域に合わせたイベントの開催をしているとのことです。アメリカでは幅広いタイプの日本酒が好まれ、アジアでは食中酒として食事をしながら飲んでもおいしい酒が好評とのことです。また、ヨーロッパでは、ワイングラスで高級酒として飲まれ、特にイギリス、フランスでは、日本酒の地域に根差している奥深さや歴史といった物語を語ることによって、日本酒もワインと同じですごいものだと認識をしてくれるということです。その他、日本の主要国際航空において免税店での試飲・販売や在日外交官等へのセミナーを実施し、在日・訪日外国人へ向けての酒のPRに取り組んでおります。情報発信として、東京都虎ノ門にある「日本の酒情報館」において、国内外問わず観光客に来てもらい、日本酒に触れる場所として提供したり、通訳ガイドの研修を行ったりしています。最後に、乾杯条例を制定している自治体についても触れ、「日本酒の日」である10月1日に日本酒で乾杯をし、地元の酒の普及への協力を呼びかけました。

 「地域文化に根差した日本酒をPRすることで、地域のPRになるのではないか。地域の酒造組合とぜひ連携を」と呼びかけ、講演を締めくくりました。

 

世界1位となった地方の酒蔵と自治体の連携

IWCで優勝した際の久慈浩介氏(右から2人目)

 一人目の講演は岩手県二戸市に酒蔵を構える、株式会社南部美人代表取締役社長の久慈浩介氏に、地方の酒蔵の海外展開について講演いただきました。

 2017年、同社は、地元二戸市の水と米にこだわった日本酒で、ワインの権威であるInternational Wine Challenge(IWC)のSAKE部門に優勝し、世界1位の日本酒であることが認められました。日本酒の製造からIWCでの優勝までの軌跡を動画でご紹介いただきました。久慈氏の口から伝えられたことは、「優勝したことがすごいのではなく、ワインの権威であるIWCに日本酒の部門があることがすごいのだ」ということでした。海外の人が日本酒を飲む4つ条件は「日本が好き」、「健康に気をつけている」、「お金に余裕がある」、「ワインを飲む」であると気づき、日本酒を世界に広めるために、久慈氏を始め、多数の日本酒メーカーの働きかけによりIWCに日本酒の部門である「SAKE部門」が2007年に設立されました。それまでは、海外のワイン好きな人たちに向けてバーを貸しきって日本酒を試飲させるという取り組みを行ってはきました。しかし、それは砂漠の中に水を垂らすようなものであり、スコールを降らせるにはどうすればいいかと考えた結果、ワインの権威であり、世界1位のワインを決めるコンテストで日本酒部門を作ることとが日本酒普及の大きな一手になると考え、ご尽力されました。久慈氏は、「世界1位の称号を核に、別次元の地域貢献をできるはず」と語り、岩手県と二戸市と一緒に地域を発信し続けていくと話されました。

 久慈氏は、国内消費が減少していて、その上、人口減少も避けられないことから国内需要は減少するであろうと説明されました。一方で、和食ブーム・日本文化の普及によって世界は日本酒を待っていると考え、1997年から日本酒の輸出を手掛けています。1997年に設立された日本酒輸出協会では、日本酒は「日本」という国名入った唯一の酒だとし、銘柄に関係なく日本酒を世界に伝える活動を紹介されました。その活動の一つとして、世界各国で日本酒セミナーと試飲会を開催し、「頭で味わってもらい、舌で味わってもらう」、特に海外では日本と違い、日本酒の歴史や造り方など「頭で味わう」部分が大変喜ばれる、ということをご紹介いただきました。また、アメリカでは和食ブームでラーメン非常に人気があり、アメリカのラーメン屋ではラーメンを食べながら日本酒を飲む光景が当たり前になっているとのことでした。

 講演の中で、二戸市が市町村レベルでは初めてとなる在外公館を使ったイベントを実施し、同社も参加したことにも触れました。その他、国連や大英博物館での日本酒の試飲会を開催したり、FIFAワールドカップブラジル大会の公式日本酒に選ばれたりと勢力的な海外展開についてご紹介いただき、「地方の自治体、地方の小さな会社でもオンリーワンなら世界を相手にできる。世界は会社規模の大小ではなく、価値の大小を見ている。地方の酒蔵でも戦える。世界に輸出し、世界の評価を日本に持ってくることで地域貢献となる」と貴重なご意見を頂くことができました。

 

ASEANでの日本酒の売り方

(株)三越伊勢丹海外事業本部海外営業統括部の中村栄二氏

 二人目の講演は、株式会社三越伊勢丹から海外展開を手がけている、同社海外事業本部海外営業統括部の中村栄二氏にマレーシアとシンガポールの店舗での日本酒の販売方法や自治体の催事にどう活用できるかのヒントについて講演をいただきました。

 マレーシアのLot10店では、Isetan The Japan Storeとして日本食の発展的拡大を目指し、特に地下フロアでは、和食を食べてもらうことに焦点を当て、販売しています。自身の日本酒の買い付けの経験から、売るのでなく、まずは口にしてもらうことが重要であるとし、食べてもらうことを意識した売場展開をしています。マレーシアの市場は、マレー系が約6割、チャイニーズ系が約3割、残り約1割がインド系で人口的にはマレー系が多いがアルコールが宗教的にNGのため、経済を担っているチャイニーズ系をターゲットとしているとのことです。日本酒の販売コーナーでは、有名ブランドももちろん重要ですが、品揃えに幅を持たせ250種類、特に純米大吟醸を知ってもらう品揃えにしているとのことです。買ったものをその場で飲めるように、イートインとしてバーカウンターも13席併設されているという紹介のほか、頭で感じて、舌で楽しんでもらうために、売場には酒の種類ごとの香りの強弱などのパネルを作成して示してあります。また、事前調査では現地では日本酒の贈答としての需要はあまりないという仮説から、4合瓶をメインに取り扱っているとのことでした。バーカウンターを活用して、和食とのペアリングや日本酒についてのセミナーを開催している取り組みをご紹介いただきました。買い物客が、生鮮の売り場で寿司や肉を買って、バーカウンターで自然と日本酒と和食のペアリングをして楽しんでいるという貴重な事例も紹介いただけました。

 同店舗のレストランフロアでは、自主運営の形を取り、日本の出店取引先からシェフを派遣してもらい、和食のクオリティコントロールに気を付けているとのことでした。また、自治体との取り組み事例についてもご紹介いただき、長野県池田町との連携したイベントでは、池田町から食材の提供を受けて、各レストランでその食材を使った料理を提供、共有スペースで日本酒・和食の試飲をするという取り組みも行ったということでした。レストランフロアで取り組むメリットとしては、地下の食品フロアに比べ「食べる」モチベーションが高いお客様が多いことで、口に入れてもらう機会が増えることと、認知度の低い食材でも現地シェフが加工することで魅力的に食材の良さを伝えられることがあるとし、重要な場であると紹介いただきました。

 シンガポールのスコッツ店の日本酒販売コーナーについても、品揃えの多さとバーカウンター併設をご紹介いただきました。こちらでもまず飲んでもらい、日本酒を知ってもらい購買につなげることを意識しているとのことです。日本の自治体のフェアの事例について、熊本・岡山フェアの例をご紹介いただきました。海外では焼酎はあまり売れないというイメージであったが、熊本県の球磨焼酎をハイボールのように炭酸水で割って試飲提供したところ、人気であったことについて触れました。その他、シンガポールは南国で果物が多いが、現地にはない果物(りんご、苺やシャインマスカット)は高価でも売れていると、現場の情報を提供いただけました。ジャパンフードフェアという日本食の展示会を行っていて、初めは自治体から協賛費をもらいながら、各地域の企業はフェアに参加しているが、協賛がなくても利益がでるようになってくるという事例についても聞くことができました。

 台湾の新光三越での取り組みについても言及されました。台湾の店舗ではジャパンフェアを企画しており、親日ということもあり現地での反応はとてもいいとのことです。今年で8回目となるジャパンフェア(9月から3か月間)は、台湾国内の5店舗で開催し190万人以上の誘客が見込んでおり、台湾でも最大規模のジャパンフェアであるとご紹介いただきました。また、台湾内の店舗では食品の売り上げが高いということにも触れ、親日という情勢もあり伸びしろがあるのではと話されました。

 

「ツーリズム・マーケティング」とは?

全国地ビール醸造者協議会(JBA)理事・事務局長等の石川智康氏

 三人目の講演は、全国地ビール醸造者協議会(JBA)理事・事務局長、「ながの酒のツーリズム・プロジェクト」コーディネーター、農都交流プロジェクト2018プロデューサーなど、幅広くツーリズムに携わっている、石川智康氏から講演いただきました。

 日本各地でもツーリズムのテーマとして日本酒・酒蔵を考えている自治体は少なくはないと思います。しかし、そもそも、なぜ観光行政や、インバウンド対策に取り組むのか、マーケティングはできているかなど、石川氏から問題提起がありました。また、ご自身の経験から、「観光資源さえあれば旅行会社が観光客を送ってくれるのではないかという考えは間違っている。また、観光客が団体旅行から個人で手配し旅行するようになってきているがその変化に気付いているか」という意見もありました。

 マーケティングの基本は、「セグメント」、「ターゲティング」、「ポジショニング」で、顧客と地域を知りつくすことが重要である、また、「本物のツーリズム資源」とは、地域において人々の暮らしに根差しているもの、自然な形で愛されているもの、当地の誇りだ・名産品だと認識されているものだという説明がありました。そのような観点からも各地域の酒はツーリズムの資源となりうる存在であるとのことです。その上で、地域の日本酒がツーリズムとして成立するのかと投げかけ、海外での酒を活用したツーリズムの事例を紹介いただきました。ドイツのザクセン州では、東西ドイツ統一後、ワイナリーが多数生まれて、「ザクセンワイン街道」として各ワイナリーが協力して一緒にプロモーションしていたり、ベルギーでは、九州ほどの大きさの土地に150のベルギービールのメーカーがあり、ツーリズムの素材になっていたり、また、スコットランドには各地に多数のウィスキー蒸留所があり、ツーリズムの有力素材になっています。海外では酒を利用し広域でツーリズムに取り組んでいることに触れつつ、日本の地域の酒蔵がツーリズムに取り組むには他社や地域全体を巻き込む(点を線や面とする)ことが重要であるとご意見を頂きました。また、酒蔵メーカー自身がツーリズムを理解し、地域が地元の酒に愛着をもつこと、酒を「見せる」際には「うんちくやストーリー」が重要であると加えました。

 地域の酒を活用したツーリズムを観光行政に取り組むための自治体の役割は、「地元の酒メーカーの参画意欲を高めること。顧客を知り、地域を知り、マーケティングを意識することだ。点をつなげて線・面にしていくことが重要」とする一方で、「観光は地域の活性化のための手段で、観光客が増えてよかったで終わらずに、住んでいる人たちが楽しいと感じる地域づくりが目的だ」として講演を締めくくりました。

 

観光の現場でのCIRの活用

酒造を取材するCIR(参照:伊丹市HP)

 プログラムの最後には、当協会からクレアの事業紹介をさせていただき、その中の一部でJETプログラムのインバウンド現場への活用についてもご紹介させていただきました。中でも、伊丹市では国際交流員(CIR)を観光部署に任用し、イベント等で訪日外国人に向けて英語でPRをしたり、そのための取材を自身の足で酒蔵を訪問したりしている事例を紹介しました。(クレアで伊丹市へ取材した際の内容も合せてご覧ください。:http://economy.clair.or.jp/casestudy/inbound/3165/)

 今後も、インバウンド対策や販路開拓に関する情報提供の場として「海外経済セミナー」を継続して開催いたしますので、ご参加ください。

 

 

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